ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927165hit]

■「怪物」
 

今年のカンヌ映画祭で、脚本賞(坂元裕二)受賞作。是枝作品は好きなのもあり、ダメなのもあり。一番好きなのはサスペンスタッチだった「三度目の殺人」です。今回も同様のようなので、期待して観てきました。事前にほぼ何も知らずに臨んだので、各々視点を変えての構成の巧みさに、ずっと緊張したままの鑑賞で、堪能させて貰いました。監督は是枝裕和。

郊外の静かな街に暮らす早織(安藤サクラ)と湊(黒川想也)。父は事故で亡くなり二人だけの家族です。学校に行きたがらない湊に異変を感じた早織は、息子に問いただすと、担任の保利(永山瑛太)に暴言を吐かれ、暴力を振るわれていると言います。学校に乗り込み校長(田中裕子)他、保利を含む教師に詰め寄る早織。しかし、この事件には、様々な陰の部分が隠されていました。

母・早織の視点、次に保利の視点、そして最後に子供たちと、段々と当初観ていた状況と異なる、様々なプロットの事実を明かしていきます。今回は考察めいた感想になるので、ネタバレです。



早織と校長(田中裕子)その他の教師たちとの話し合いの場面で、あまりにも精気がなく、心ここに有らずの校長に絶句。保利も奇矯な態度や失言で、不可思議な人だと印象付けますが、この校長の比じゃないです。誤って夫が孫を車で轢いてしまい、孫は死亡。その為だと早織の告げる教頭。これはね、いくら何でも酷過ぎる。事なかれの学校の姿勢は、私も昔の子育て中に幾度か見知っていますが、それでもこの校長は無いです。同情すべき事情ですが、ちゃんと仕事出来ないなら、復帰すべきじゃない。「校長、学校が大好きだもの」の、他の先生のセリフがありましたが、だから早めに復帰したと言いたいのか。いやいや、好きとか嫌いとかではなく、仕事舐めてんのか、あんた?くらい酷い。最後まで観て、これも伏線だったのかもと思います。

案の定、状況は改善せず、また早織は学校へ足を運ぶ。こういう時二回目は父の出る幕です。しかし早織はシングルマザー。でも他の方法は取れるはず。埒が明かない時の手順は、PTA学年代表→PTA会長とか、色々あります。一人で行くのは得策じゃないなとは、思いました。もちろんもう一度独りで学校へ乗り込むも有りですが、早織はママ友もおり、クリーニング店勤務という地域に根を生やした暮しをしているので、母親としての身の施し方は知っているはず。それなのに、モンペとは思いませんが、母としての聡明さには欠ける印象です。しかしのちに語られる湊の言葉で、どうして早織が賢く立ち回れないのか、感情に突き動かされるのか、解かる気がしました。

次は保利の視点。早織の視点からの出来事が明かされ、結論として早織の誤解で、保利は湊を虐待してはいません。しかし、保利の視点では湊は依里(柊木陽太)を虐めており、湊に問題行動ありと思っている。なので保利の中では、言い掛かりをつける早織は、自分の子供を知らないモンペ扱いなのです。それが話し合いの時の態度に出たのでしょう。児童の事は教師として案じており、私は悪い先生ではないと思いました。恋人(高畑充希)もおり、そこそこ順調な人生のよう。しかし雑誌の誤植を見つけては、発行元にクレームするなど、歪な面があります。他にも避妊具なしのセックスを強要したり、自分勝手な面もある。必要もないのに、子供たちのウケを狙って外したり、子供たちを見つめるより、自分がどう子供たちに思われるのかが、優先しているように感じます。そして何より不可解なのは、それなりに良い先生なのに、子供たちに悪意のある嘘を付かれたのか?でした。

うつうつ閉塞的な画面が、子供二人の視点になると、俄然輝き出します。ホント、是枝は子供に演じさせては、魔術師のようだわ。いったいどんな術を使っているのかしら?


[5]続きを読む

06月06日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る