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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「エゴイスト」


観終わって、あぁエゴイストのタイトルは、こういう意味かと、深々胸に染みわたった作品。濃厚な男性同士の性的シーンもたくさんありますが、清潔感が損なわれず、純粋な恋人同士の愛情を感じる作品です。監督は松永大司。

雑誌の編集者の浩輔(鈴木亮平)。社会的に成功し、気の置けないゲイ仲間との集まりを楽しむ彼ですが、故郷でゲイを隠していた頃の苦い思い出と、14歳で亡くした母への想いを胸に秘めています。友人に紹介されたパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)。病気の母妙子(阿川佐和子)を養うため、高校は中退したと聞き、頑張っている龍太を褒めます。魅かれ合う二人は、程なく恋人同士に。しかし龍太は、母を養うため、秘密に身体を売っていました。

当初は兄と弟のようにふるまっていた浩輔。それが段々と恋人同士になる様子が、とても瑞々しい。お互いが敬意を持ち、その人柄に魅かれ合っているのが解るのです。浩輔の財力や、龍太の若さと美貌より、それらが勝っていた二人に感じました。

妙子は、息子が身体を売っていた事は、多分知っていましたね。本来なら高校生を抱えて、生活保護を申請すべき場面ですが、夫は愛人と出奔が理由の離婚。意地でも生活保護は受けたくなかったでしょう。そして、愛する息子が自分を守ってくれている事は、何にも代え難く、嬉しい事だったはず。これが娘なら、きっと止めたはず。彼女的には、妊娠のない男性同士のセックスは、それ程重いものではなかったのかも、知れません。でも彼女は間違っている。それでも私は、妙子の気持ちが痛いほど理解出来るので、この母を責めたくはありません。

龍太は、浩輔と出会って、ウリが出来なくなったと言います。それまで本当の意味での愛を知らなかったんですね。だから他の男性とのセックスを嫌悪してしまう。ここに男女の差異は無いはずです。

龍太の窮状を知り、自分が経済的な援助をすると申し出る浩輔。「二人でやれるところまで、頑張ろう」。二人を観て、私が咄嗟に思ったのは、「夫婦」でした。愛する人の親のため、義理の仲にも関わらず、大切にしたい想いは、とても麗しい。しかし彼らは同性なので、傍から見たら、龍太は囲われ者の愛人です。戸籍ではなく、お金が絆となる関係。浩輔はそれで龍太を独占しようとし、龍太も感謝しながら、その事で二人が離れ難くなりたいと思っている。

この作品の唯一の文句は、友人との会話に、折角同性婚を絡ませているのに、それを発展させていない事です。妙子の急な入院に駆け付けた浩輔が、親族でもないのに、病室を教えるなど、現実にはありえません。ここは面会を阻まれて、話を発展させるべきだったと思います。結婚している男女間なら、崇高に見える浩輔の想いが、彼をエゴイストに見せてしまう事が哀しい。


浩輔に「あの子の父親ね、家に女を連れ込んだのよ」と昔話をする妙子。」「あら〜、そう〜。それは駄目よね」と本当に自然に返事する浩輔を観て、これが息子の彼女なら、こうはいかないと思いました。こんなにすぐは打ち解けないです。

友人たちとの井戸端会議的会話もすごく自然で、全く威圧感がありません。私もすぐに飛び込めそうなくらい、親しみやすい。でもスーツのおじさんたちの群れに、一人で入っていく勇気はありません。あぁこの人たち、「男のおばさん」なのよ。勿論、ゲイの人もそれぞれ個性が違うでしょうが。以前中年から初老の女性たちが、一番ゲイに理解があると読みました。私はセルジュとジルベールや、若くて美しい吸血鬼たちのお陰だと思っていましたが、それだけじゃないんだな、きっと。

ふと、ゲイに嫌悪する中高年の男性たちは、自分の中の男のおばさん的部分を恥ずかしく思い、それで彼らを憎むのかと思いました。どんな男性も女々しくておばさん的部分はあると思いますが。私も女のおじさん的部分があるもん。
多分ね。でも恥ずかしくなんか、ないけどね。


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02月17日(金)
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