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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「イニシェリン島の精霊」

わー、もうスゲーな、監督!100年前の架空のアイルランドの孤島を舞台に、おじさん二人の仲違いを通じて、人間の本質をアイルランドの内戦を絡めて描いています。一生監督について行きたくなる作品。監督はマーティン・マクドナー。
1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。今日もパードリック(コリン・ファレル)は、親友のコルム(ブレンダン・グリースン)とパブに行くため、彼の家まで誘いにきました。しかし無言のコルム。その後、謎の絶交宣言されるパードリック。長年友情を育んできて、昨日までの仲良くしていたのに。納得出来ないパードリックは、何故なのか、その後もコルムに付きまといます。業を煮やしたコルムは、今後パードリックが自分に話しかけたら、自分の指を一本ずつ切り落とすと宣言します。
冒頭映し出される、喉かで牧歌的な島の風景は、少し視点をずらすと、荒涼として寒々しくも見える。この塩梅が絶妙で、鑑賞後、この冒頭こそ、この作品を映し出していたんだなと思います。
純朴そうなパードリックに対して、強面のコルムの、このいきなりの宣言は、心無く感じます。しかしお話が進むと、バイオリンの名手で作曲もこなせば、知識も豊富なコルムは、この島では、一目置かれているのが判る。対するパードリックは、純朴で善良に見えるも、頭の回転が鈍く、コルム以外には、親しい友人もいない。
コルム曰く、「自分はもう何年も生きられない。やりたい事が山ほどある。退屈なお前の話に付き合う時間がないのだ。」そう。こうまで言われれば、ああそーかい、上等じゃねーか、、こっちから願い下げだよ!と、普通はなるのに、納得しないパードリック。善良さに変わりはなくても、純朴と言うより、愚鈍な人だと解ります。最初は侮辱的なコルムに腹が立ったのに、段々コルムの言う事が理解出来ないパードリックに、イライラしてきます。
小さな島は、二人の噂で持ち切りに。神父さんまで、いっちょ噛みする始末。でもコルムに言い返されて怒った神父は、コルムに「地獄に落ちろ!」と怒鳴ります。えぇぇ!懺悔する信徒に、そこまで言わなくてもと、びっくり。しかしこの島の人を見渡せば、傲慢でサディストの警官、噂話と陰口が好きで、人の手紙まで勝手に読む小間物屋の女主人、禍々しく不吉な予言ばっかりする、魔女みたいな老女(これがどうも精霊らしい)。二人の喧嘩に物見遊山は人々など、はっきり言って低俗です。そして面白おかしく人のプライバシーを覗き込む、悪意もある。
そんな中、コルムがシンパシーを感じるのが、パードリックの妹のシボーン(ケリー・コンドン)。聡明で知性があり、人の噂話をするより、読書に勤しみます。彼女もまた、島民には「嫁き遅れ」と陰口を叩かれながら、異彩を放っています。
シボーンはコルムは病気だと、兄を慰める。私もそう思う。このファナティックさは異常です。指を切り落とした時は、ゴッホかと思いました。切欠はアイルランドの内戦だったんじゃないかなぁ。毎日にように対岸から砲弾の音がして、この閉塞的な島のBGMのようになって、自分の人生や年齢を顧みて、こんな筈ではなかったと、どんどんコルムの感情を追い込んでいったのではないかな?
シボーンはいつも怒ってばかりいます。この島を覆う閉塞感や、礼節や品格の無さに、常に苛立っています。しかし他者の心は傷つけない。彼女には理性と慈悲深さがあるからです。「俺は退屈か?」と傷つく兄に、「兄さんは良い人よ」と慰める。モーツァルトの件で、コルムの間違いを指摘したシボーンは、記憶違いだけではなく、兄に対しての無礼にも、「貴方は間違っている」と言いたかったのではないかな?同じように教養豊かで知性があっても、明確にコルムとシボーンは違いました。アイルランドの内戦も、シボーンのような思考なら、起こらなかったと描いていたのかも。この辺は私は内戦の知識に疎いので、違うかもですが。
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01月29日(日)
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