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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「流浪の月」

観ながらずっと、これ原作は良いのだろうなぁと思っていました。長尺の割には説明不足、冗長に感じる場面もしばしばです。メッセージが尊いのは理解出来ましたが、私には決定的に破綻しているのでは?と感じる箇所があり、私的には何で巷でこんなに高評価なんだろう?と、少々謎です。監督は李相日。今回はネタバレです。
10歳の更紗(白鳥玉季)は、雨の日の公園で傘をさしてくれた19歳の大学生、文(松阪桃李)と出会います。家に帰りたくないと言う更紗に、「うちに来る?」と尋ねる文。そのまま楽しい日々を過ごす二人でしたが、二か月後、文は更紗の誘拐犯として逮捕され、終焉を遂げます。15年後、ファミレスでアルバイトする更紗(広瀬すず)は、一流会社に勤める亮(横浜流星)と同棲中。ある日同僚のシングルマザー安西(趣里)に誘われたカフェで、店主として働く文と再会します。
子供らしい素直さと明るさの反面、家庭に屈託を抱えている更紗。父は亡くなり、母は男と出奔。親戚に預けられるも、そこの中学生の息子に、性的虐待されています。寄る辺ない身の上は、この事を誰にも告げられず、彼女が家に帰りたくない気持ちは充分理解出来ます。小学校時の更紗を演じる白鳥玉季が秀逸。面差しが広瀬すずに似ており、彼女の好演で、更紗の本質は明朗だと記憶できます。
対する文は、大人しくて優しいですが、暗い。性的な接触は更紗に求めず、後々彼に付きまとうロリコンではありません。しかし下心無しに19歳の男性が小学生女子と暮らすのは不自然で、彼にも何かあるのは明白。晩御飯にアイスクリーム、寝そべってピザを食べる更紗。「怒らないの?」と文に尋ねるので、これは以前の家庭での名残でしょう。私は躾が悪いと感じましたが、微笑む文には、新鮮に感じたのでしょう。後述、文の母親(内田也哉子)は、息子から正しい事しかしないと語られるので、躾は厳しかったのでしょう。そこから抑圧されて育ったのかと推測しました。
松阪桃李は、ちゃんと二十歳前後の男性に見えました。役作りにだいぶ痩せたのでしょう、眼差しに鋭さと純粋を湛える、屈託を抱える文を上手く演じています。
正に魂が共鳴、呼応したんだなと、ここまでは問題なし。幼い更紗はともかく、ほぼ大人と認識される年齢の文でも、自分の孤独を癒してくれる更紗の存在は尊かったはずで、浅はかさよりも、覚悟を感じました。
成人してからの更紗は、自分を偽って生きているのが解る。同僚とのシーンしかり、亮とのセックスしかり。相手に合わせてばかりです。何度も出てくる「私は可哀想じゃないよ」と言うセリフ。必死で自己の確立を保つ心を支えているのは、文との二か月です。
その他は、色々疑問が。15年前の事件って、今でもそんなに記憶があるのかな?名前を聞いただけで、直ぐに繋がるものなのでしょうか?往々にして好奇心に晒されるのは理解出来ますが、こう周りがみんな「更紗はかつてロリコンに誘拐された子」と、表立って本人に言いますか?それも被害者側に。確かにネットに晒される恐怖は事実ある事です。でも15年は本人はともかく、周囲、それもその時全く無関係だった人には、風化させるには十分な年月です。この辺は人によって見方は変わると思います。
文はこの件で、少年院に入ったと語り、更紗は自分の我がままと、事情聴取で従兄の性的虐待を言い出せず、文の罪を重くしてしまったと、謝罪します。これは疑問ですが、更紗が文に暴行されていないと立証出来たら、文は少年院に行かずに済んだのでしょうか?当時ギリギリ未成年の文に、精神鑑定はあったのか?このプロットがラスト私が「破綻している」と感じる切欠です。
二人の仲を引き裂こうと、ネットに文の過去と現在を画像入りで載せる亮。そこから瞬く間に拡散は解かる。いやいや、解り合えるのは世界で二人だけ、とは、充分に描いている。なら、手に手を取って誰も知らない場所に逃避行すれば?二人とも相手はいても独身。店は生前贈与して貰った資産で開いたもの。叩き売ったら、逃避行のお金くらい出るでしょう?19歳と10歳のような感情は保っていてもいいですが、今後の予見くらいは15年の歳月で分別つくと思いますが。
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05月22日(日)
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