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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ハッチング-孵化」


フィンランド製ダークホラーです。軸になっているのは、ヒロインのローティーンの女の子と母親の関係性です。禍々しく不穏な空気に、私自身の経験と重なる事もあり、感慨深く観ました。幕切れに残酷な感想を抱いていたのですが、映画を通じて仲良くしていただいている牧師さんの、イースターの素晴らしいお説教を拝読して、感想が一変!お陰様で、ずっと心に残る映画となると思います。監督はハンナ・ベルイホルム。

両親と弟と暮らす12歳のティンヤ(シーリ・ソラリンナ)。ティンヤは体操を習っています。ブログに幸せ発信するのが生き甲斐の母親(ソフィア・ヘイッキ)の圧力に疲弊するティンヤは、ふとした事から拾った鳥の卵を、自分の部屋に持ち帰り、孵化させます。その鳥に「アッり」と名付け、可愛がるティンヤでしたが、それが思わぬ惨劇を引き起こします。

ティンヤの家は、北欧独特の美しくロマンチックなおうちで、それが過ぎて、まるでドールハウスのように生活感がありません。ティンヤの部屋が顕著なのは、母親の娘に対しての期待の大きさが伺えます。

ブログに載せる家族のショットを自撮りしていると、一羽の鳥が室内に侵入し、家具や照明を破壊。捕まえた鳥の首を躊躇せず捻る母。美しい容姿、良妻賢母を装いながら、一瞬で二面性を描いています。死骸をゴミ箱に捨てろとティンヤに告げる母。いやいや、死骸だよ?まだ子供のティンヤには怖いはず。しかしおずおず母の言いつけを守るティンヤ。日常のそこかしこに、にこやかに微笑みながら、「あなたのためよ、あなたもそう思うでしょう?」と、ティンヤを呪縛する母。必死に応えようとするティンヤ。子供なら当たり前、期待に応え母に愛されたいのです。

母は弟には無関心、建築家でそれなりに成功している父は、妻の言いなりなら平和とばかり、子供や家庭には事なかれです。母親がティンヤに執着するのは、自分と同じく容姿が美しいからだと思いました。自慢したいのですね。

偶然鳥の卵を見つけるティンヤは、あの鳥の卵だと確信します。家に持ち帰ったのは、罪悪感があったからでしょう。優しい子です。母との関係の辛さから涙するティンヤ。その涙がどんどん卵を大きくする。孵化したアッリを慈しむ様子は、自分の疲弊した心を、アッリを愛することで癒しているように見えます。

この母親は、所謂毒親で、自分の不倫相手と抱き合っているところを娘に観られ、あろうことか、「ママには恋が必要なの。二人の秘密よ」とティンヤに告げます。これね、何を隠そう、私も10歳ころに同じような経験をしました。私の母の相手は、当時父の会社で働いていた人。偶然抱き合っているところを目撃した私に母は、「にきびを絞って貰っていた」と苦しい言い訳をするのです。ほんとバカな言い訳ですが、ティンヤの母を観て、まだましだなと思いました(笑)。

当時私も母の言い分を信じました。信じ込もうとしていたと思います。父にも誰にも言いませんでした。夫婦仲が悪いのは解かっていたし、家庭が壊れるのを恐れました。私も母に抑圧された子供時代を過ごしたので、子供とはそういうものだと、素直に従うティンヤの気持ちがとても良く理解出来ました。

本当は友達とでも話せば良いような、子供にはするべきではない会話を、ティンヤの母同様、私の母も娘としたがりました。父の浮気、その内容その他盛沢山。。今の時代に照らし合わせれば、多分虐待です。子供らしい思考、楽しみ。私もティンヤも母親に奪われている。

私の母は筋金入りの人格障害で、愛着障害もあったと思います。ティンヤの母の「誰も私を幸せにはしてくれない!」とのセリフは、ティンヤが試合で優勝できなかった時のセリフで、あぁこの人もだなと思いました。子供が試合で負けたなら、普通の親なら怒ったりせず、子供を慰めるものです。ティンヤはと言うと、母に怯えるだけ。自分の吐いたものをアッリの餌とする様子は、摂食障害も感じます。負の連鎖。


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04月24日(日)
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