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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」


ここ数年は絶対見る監督の一人になった、ウェス・アンダーソンの新作。でも今回、一切前評判を遮断しても、ダメなんじゃないかなーと危惧していました(ただの勘)。いつも通り秀逸な美術を愛でながら、まぁそれなりかな?と思っていたら、三話目で段々思考が膨らみ出し、前の二つのお話をもう一度おさらいすると、それなり→とても良かったに転換しました。やっぱり素敵な監督さんです。

1975年。アメリカ中西部の新聞『ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン』は、世界中のジャーナリストがオリジナリティあふれる記事を寄稿する、別冊雑誌を持っています。それが1925年創刊の『ザ・フレンチ・ディスパッチ』です。。フランスの架空の街アンニュイ=シュール=ブラゼに編集部があり、世界50か国で50万人の読者をかかえていました。しかし、創刊者で編集長のアーサー・ハウイッツァー・Jr.(ビル・マーレー)が急死したことで、彼の遺言どおりに雑誌を廃刊することが決まってしまいます。

ウェスの特性である美術が、またまた素晴らしい!アニメが実写で現れたようで、愛らしい絵本をめくっているようなのに、なんだ、この謎のリアリティは。クオリティが高く、美術だけ目で追っても、充分元は取れます。

構成は三部作のオムニパス。一話目は囚人で画家のモーゼス(ベニチオ・デル・トロ)にまつわるお話し。美術商のガダージオ(エイドリアン・ブロディ)は、モーゼスの絵を気に入り、売り出そうとします。絵のモデルは看守のシモーヌ(レア・セドゥ)。これが一筋縄ではいかない。冒頭オールヌードでポージングするレアにびっくり!そして看守役なので二度びっくり(笑)。シモーヌはまるで猛獣使いのように、殺人犯のモーゼスを調教していて、彼女の事なら何でも聞きます。

二人のラブシーンで鎖骨までしか映していない姿は、多分事後。信頼感と官能性と言う、異質のものが溶け込んでいて、美しい。私が感じ入ったのは、モーゼスの人生が、元々は裕福な家の出であったのが、その後、不潔→飢え→孤独→犯罪→精神病と軌跡を辿ると語られていたこと。犯罪までは一緒くたに起こったのでしょうね。対するシモーヌも、貧困の出自で、学校にも行けず字も書けず、教養とは皆無の育ちながら、看守までなった人。氷の表情の下には、きっと熱い思いを抱えているのだと思いました。違うようで似ている二人。シモーヌは猛獣使いではなく、モーゼスのミューズなのでした。

「007」のヒロイン役はあんなに華がなかったのに、今回一瞬たりともニコリともしないシモーヌ役のレアは、出色の存在感。冷徹さには、女心の情念が隠されていて、そこはかとなくそれが滲み出る様子が、官能的です。レアはこの手の癖のある役柄は、クールな美貌と相まって追随を許さないですね。平凡なヒロインのオファーは断ってくれ。

私はアートには全く造詣がないですが、これは抽象画の値打ちを皮肉ってるのかと感じました。全然見えないと言われていた、絵画の中のシモーヌですが、私には変なポージングの彼女が、確かに見えましたが。これって錯覚?それとも見えないのに、傑作だと騒いでいる人たちを皮肉っているのかな?

二話目は、中年の切れ者記者クレメンツ(フランシス・マクドーマンド)の巻。高潔にして孤高なるジャーナリストの彼女。成り行きで友人夫婦の息子で学生運動のリーダーとして身を投じているゼフィレッリ(ティモシー・シャラメ)と付き合い出します。ゼフィレッリがチェスでまったり学校側と談合する様子と同じく、少々退屈な展開だったのが、ゼフィレッリを好きな女子学生(リナ・クードリ)に、「年増は引っ込んでろ!」と言われて、涙ながらに「私の尊厳を奪わないで・・・」と言うクレメンツに、眠気が吹っ飛ぶ。


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02月13日(日)
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