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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「最初の晩餐」


ずっとずっと違和感を持って観ていた謎が、ラスト近くの斉藤由貴の台詞で、ストンと腑に落ち、もやもやが晴れて、その後わ〜っと!胸に感情が押し寄せてきた作品です。監督は常盤司郎。今回ネタバレです。

カメラマンの東麟太郎(染谷将太)は、父日登志(永瀬正敏)の葬儀のため、故郷の福岡に帰ってきました。姉の美也子(戸田恵梨香)と継母のアキコ(斉藤由貴)が、通夜の用意をしていた中、突然アキコが、通夜の料理は自分がすると言い出します。かつて東家では、アキコの連れ子であるシュンもおり、五年間は一緒に暮らしていたのです。その事を、麟太郎と美也子は、通夜ぶるまいの料理を出される度、思い出していました。

子供を連れた者同士の家族の有り方、絆を描くのかと鑑賞前は思っていました。夫婦になったのに、何となくよそよそしい日登志とアキコ。子連れの再婚は、男性は家事、女性は経済的な救済を求めてするケースも多々あると思います。それ自体は決して咎められるものではないですが、それならもっと近くの人を選んだはずで、アキコは東京からはるばる福岡の、それも片田舎に嫁いできました。少し不思議でした。

よそよそしかった子供たちを何とか繋ごうと、ハイキング、家族揃っての食事、参観日への出席など、苦心を重ねる夫婦。それが徐々に実を結び様子が微笑ましい。敵同士のようだったのが、いつしか美也子と麟太郎は、シュンを「シュンにい」と呼び、シュンは「美也子、麟太郎」と呼び捨て、兄弟とは又別の、家族としての親愛を築いた頃、一本の電話が家庭に嵐をもたらします。

ラストで明かされますが、二人は不倫関係から結ばれたのです。アキコはシュンの父親があり、日登志は別居中ですが妻がいました。電話は、アキコの夫が亡くなった知らせでした。アキコの夫は、妻との別れ話が拗れ自殺未遂。一度も目が覚めることなく、亡くなったのです。同居から五年、それぞれ大学生、高1、小6となっていました。ラストのアキコの告白で、この淡々と水墨画のような作品が、冒頭から改めて鮮やかな色を伴って、私の心に蘇りました。

日登志が、生き甲斐のような山岳ガイドの仕事を捨て、近所の工場勤務に替わったのは、私は家を空ける仕事は、今の継ぎはぎの家庭には相応しくないと思ったからだと、当初理解していました。そうではないのですね。夫からアキコを奪ったのだから、自分も生き甲斐を捨てなければいけないと思ったのでしょう。

シュンが円満になった今の家庭を出て行ったのは、夫婦の馴れ初め、実父の死を、日登志から二人きりの登山の際に知らされたからです。この家に居られるわけがない。大好きな家庭を出て行かねばならない。シュンにどれほどの失望と怒りと無念さがあったか、あまりあります。日登志とアキコは、二度もシュンから家庭を取り上げたのです。

美也子は日登志を「パパ」と呼ぶのに、アキコは夫を「お父さん」と呼ぶ。日登志もアキコを「お母さん」と呼ぶ。私はこれからは子供たちのため、親を第一に生きようと、夫婦が決めていたからなのだと受け取りました。それが私には、よそよそしさと映ったのだと思います。だってこの二人は、不倫関係だったのに、子供も手放さす一緒になったのです。それが子供たちへの、贖罪だったのでしょう。

美也子はアキコの告白を聞き「何を今頃言うの?自己満足?」と怒ります。そして「新しい家庭には、私は期待しとった!」と泣きました。子供は夫の手元に残し、元夫の葬儀にも顔を出さない美也子たちの母です。暖かい家庭を、当時の美也子が期待し、それが実現出来たと思ったら、シュンが突然いなくなると言う形で、終焉を遂げたわけです。美也子も麟太郎もまた、この夫婦の被害者だと思います。

美也子に謝りつつ、「それでも私は、あなたたちと出会えた事、後悔していないの」と微笑みながら言います。アキコは継子から疎まれているのを知りつつ、そう言うのです。この作品は不倫を肯定しているのだろうか?血の繫がらない家庭の絆を問うのか?私は違うと思います。これは不倫の果て添い遂げた男女の、罪と罰だと思いました。


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11月18日(月)
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