ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927295hit]
■「Girl/ガール」

観たい作品は多いけど、心底公開が待ち遠しい作品が最近は少なくなってきたこの頃、この作品は数少ない後者でした。素晴らしい作品です。時には同性として、時には親目線で、主人公のララを見守り寄り添った二時間でした。監督はルーカス・ドン。ベルギーの作品です。
15歳のララ(ヴィクトール・ポルスター)は、トランスジェンダーの少女。難関のバレエ学校に入校が認められ、編入します。シングルファーザーの父マティス(アリエ・ワルトアルテ)と弟のミロの三人家族。理解ある父、誠実な医療関係者には恵まれていますが、周囲の好奇の目に、ストレスが隠せないララ。加えて、ホルモン療法が始まったのに、一向に女性らしくならない自分の体に、ララは苛立ちます。
ララがあまりに清楚な美少女として自然なので、そこでまず気持ちが作品についていきました。演じるヴィクトール自身はシスジェンダー。現役のバレエダンサーだそうで、髪もこの作品のため、伸ばしたのでしょう。起伏の激しさを隠し、平静を装う難しいララの内面を、隅々までこちらに届けてくれます。映画初出演ながら、驚異的な演技力で感嘆します。
私はバレエは素人ですが、男性と女性の踊りが全く違う事は理解出来ます。いくらバレエダンサーだとて、一から女性の踊りをするのは、大変だったと思います。
ララは自分の体にコンプレックスがあります。日に日に背は伸び筋肉が付き、足は大きくなる。心と反比例するように、男らしくなっていく。身体的な性変更手術は18歳まで待たねばならず、ホルモン療法が始まりますが、成果はなかなか見られません。苛立つララ。
男性器を目立たなくするため、レオタードの下にテーピングをするララ。体に悪いと医師に止められているのにも、関らず。所謂「前張り」のような状態で、つけている間は、もちろんトイレに行けません。皆が水分補給をする中、一人我慢する姿に、胸が軋む。、テーピングを外すと、肌は赤く被れています。観ていて本当に切なくなってくる。
段々と頭角を現すララに、心ない言動で彼女を侮辱する同級生女子たち。ララが後ろからヨタヨタ付いて来る時はウェルカムなのに、自分の立場を危うくすると牙を向く。「差別」です。だって自分たちは、天然の女の子。「男」なんかに取って変わられるのは、腹立たしいのです。途中まで仲間扱いしているように描いていましたが、真にはトランスジェンダーに理解がないのです。
女性用のトゥシューズは足の大きさに合わず、レッスンの度に彼女の指は血を流します。劇中どんな辛い時も彼女は泣きません。ララの足が真っ赤に染まるシーンが度々出てくるのは、ララの涙なんだと思いました。
誰にもこの辛さや苛立ちはわかってもらえない。孤立し孤独なララ。そんな彼女を支える父が素晴らしい。ただでさえ難しい思春期。そこへ性自認の悩みを抱える「娘」。「少女」を経験したことのない男親は、理解に苦しむ。時には心細さに甘える娘を抱きしめ、時にはウザがられ、口論もしばしば。自分の恋愛も一旦棚上げにして、娘から逃げない父。このお父さんの姿、全ての親に見てほしいと思いました。
予告編にも出てくる、「お前はいつも大丈夫としか言わない」との父の問いに、「言いたくない。大丈夫じゃないから」と答えるララ。それは自分の事で父に心配や迷惑をかけて悪いと思っているから。そして他人に侮辱されていると知れたら、父は哀しみ、自分の自尊心も壊れてしまうから。両者の心が解り過ぎるくらいわかり、このシーンで思い切り涙が出ました。
でもね、お父さんが言ってたでしょう?お前は立派に女の子だと。パパだって、段々男になったんだと。何て慈愛に満ちた言葉でしょう。男だから女だから、妻だから夫だから、母だから父だから。みんな最初は何も無いところから、努力して段々何かになる。この言葉、しっかり覚えておきたいと思います。
[5]続きを読む
07月08日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る