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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ガラスの城の約束」
ブリー・ラーソン主演の人間ドラマは外さないなぁ。昨今流行の「毒親」と言う括りではなく、子供時代の辛い記憶から逃げず、親を見つめなおす事で、否定する自分自身の生い立ちから、解放された女性のお話です。アメリカの人気コラムニスト、ジャネット・ウォールズが書いた、彼女自身の実話です。監督はデスティン・ダニエル・クレットン。私の今年一番の作品です。
1989年アメリカ。若き人気コラムニストのジャネット(ブリー・ラーソン)は、優秀な会計士で投資家のデヴィッド(マックス・グリーンフィールド)と結婚間近。デヴィッドと顧客との会食を終えたジャネットは、帰りのタクシーで、ゴミ箱を漁るホームレスを目撃します。それは未熟な親として、彼女たち四人の兄弟に、充分な養育環境を与えなかった、父レックス(ウッディ・ハレルソン)と母ローズマリー(ナオミ・ワッツ)でした。
夢ばかり追い続けるレックスは、仕事が続かない。売れない画家の母は育児や家事より絵を描く事に熱心です。とても良き親とは言えず、お金が無くなれば夜逃げの連続で、お陰で子供たちは就学年齢にも関らず、学校に行っていない。
何より私が心を痛めたのは、子供たちが始終お腹を空かしていること。成長期の子供にとって、何より辛い事です。「最貧困女子」の中で、ネグレクトで育った子達が、一様に夕暮れ時が嫌いだと言うのだそう。何故なら学校から帰宅の途中、あちこちから夕餉の支度の匂いがする。でも自分たちには、夕食は用意されていない。余りの残酷さと切なさに、一母親として、読んだ時号泣しました。
この両親は、ある意味子供に依存しています。自分たちの家庭の理想には、「子供」が必要だったのでしょう。だから、子供が成長する事に必要なものは拒み、手元を離れる事を極端に嫌う。子供はいつまでも子供ではなく、思考も感情も育つのに、それが理解出来ない。見守ることも出来ないのです。親になってはいけない人なんだと思いました。
火傷させても虐待の通報が怖くて病院から連れ出してしまう、続かぬ仕事、毎度の夜逃げ、入浴できず公営プールでのシャワー、食費を飲酒に使う(レックスはアルコール依存)、夫がダメなら自分が働きゃいいものを、絵を描くしか能の無い母。しかしこの劣悪な環境に子供たちを思い、胸を痛めるものの、私は不思議とこの出来の悪い両親を、責める気になれません。
それは作り手が責めていないから。この無頼で未熟な両親は、歪ですが、間違いなく子供たちを愛しています。子供に対して、身体的にも精神的にも暴力をふるうシーンは、一度もありません。そしてレックス自身が虐待の被害者である事を匂わせ、何故彼がこんな風変わりな人間になったのか、糸口を見せてもくれます。そして成長した子供たちを自分たちのために働かせたり、お金の無心もしません。不法占拠の家に住もうが、ゴミ箱を漁ろうが、子供を頼ったりしない。
親の全てに否定的なジャネットに、姉や弟は、楽しい時もあった、と言います。普通の親の愛情を得られなかったとて、全て否定していいのか?それは違うのです。私も平凡な家庭に育ったとは言い難く、この作り手&原作者の言いたいのは、ここだなと思いました。
ジャネットはちゃんと火傷を治療しなかったせいで、引き連れた火傷の痕が、お腹に広がっています。子供を警察に取られたくない一心の、浅はかな親の行動でした。しかし後年、この傷が彼女を守ってくれるのです。本当は負の傷跡を、ジャネットは機転を利かせた。あぁここだと思いました。
子は親を選べない。親から学ぶのは、良き部分正しい部分だけではなく、負の爪痕を自分でどう昇華するのか?それは子供自身にかかっている。どんな出自に生まれようと、今の自分は自分自身が作り出したものです。
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06月25日(火)
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