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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「愛しのアイリーン」

私事ですが、夏に姑になりました。永い春だった長男夫婦ですが、その期間が功を奏して、お嫁さんとの仲は、お陰様で良好。気は使うけど、お嫁さんて、可愛いもんだなぁと喜んでいた矢先、この作品で木野花演じる主人公岩男(安田顕)の母を観て、私の感情は真っ暗闇に(笑)。登場人物の生臭い感情を、強烈に露にしながら、それでも心の奥底に秘めた、その人しか知らない哀しみを、観客に届けてくれる怪作。私は好きな作品です。監督は吉田恵輔。
農家の一人息子の岩男。42歳ですが女けはなく、気になっていた勤め先のパチンコ店の同僚で、シングルマザーの愛子(河井青葉)に手酷い振られ方をしたのをきっかけに、貯金300万円を叩いてフィリピンへお見合いツアーに向かいます。次々と替わる相手に疲れ果てた岩男は、自分にじゃれつく、まだ年若いアイリーン(ナッツ・シトイ)に、「この子でいい」と捨て鉢に決めてしまいます。アイリーンを連れて家に戻ると、そこは認知症気味であった父(品川徹)の葬儀の真っ最中。アイリーンを観た岩男の母ツルは、猟銃を持ち出し、アイリーンを殺そうとします。
お見合いと言っても、早い話しが嫁の来てのない男が、嫁を「買う」ツアー。そのお金が300万で、結婚後も嫁の実家に仕送りしなければならない。原作は1990年半ばなので、そういった事例も耳にした事があります。今はどうなのかな?
とにかく暗ーい岩男。風采が上がらず色んな意味で自信がない。これは母ツルのせいだわね。プライバシーのない居内、四十路の息子が誕生日のため、早く帰って来いといい、マスターベーションの様子まで覗き見する。息子の事は、何でも把握しないと気が済まない。あぁ恐ろしやと思いつつ、私も四十路の息子が結婚もせずパートナーもいなかったら、「お誕生日会」やりますよ、きっと。彼女を見ていて、全否定は出来ない自分も怖い。これ、娘ならどうなんだろうか?昨日は近くに住む独身の次男が来ると言うので、夕食は次男の好きなものを作りましたが、もしかしたら、これもいけないのか?嫌だなー、怖いよー。
汚い小娘とアイリーンを罵り(便所のなんとか?すごい罵り方)、暴力・嫌がらせ、なんでもござれのツル。果ては、離婚させて、別の娘をあてがおうとする。この凄まじさには、いくら田舎の農家だとて、やっぱり少し時代を感じます。私の周囲は、嫁姑問題が皆無で、皆息子のお嫁さんを褒める。でも、その昔は、嫁にとって姑とは、天敵でした。。亡き姑は私を可愛がってくれましたが、友人の一人は舅姑に尽くし、家を守り、私なんかより遥かに良き嫁だったのに、息子が嫁を迎え「お嫁さんて、可愛いよな。そやのに私の姑は、何で私をあんなに苛めぬいたんやろ?」と、姑から嫁の立場に戻ると、目が据わってくる(女は夫や夫の親族絡みの事は、終生忘れない)。
私より一回り以上、上の年代の人で、「息子の嫁さんは、どんなに完璧な人が来ても、息子の嫁と言うだけで嫌」と言う人もいました。息子への執着が、息子に重荷を背負わしているのが、わからないのだな。母親の子供への執着と言うほど、厄介なもんはありません。そこには、真実の子への愛情もあるからです。なので呆けた岩男の父が、一瞬正気になって「お前は結婚は出来ん。親を捨てられねぇから」と言ったのは、極論的には正しいのです。当然烈火の如く怒る母。いやー、正論だって怒っていいよ。私だって息子たちには捨てられたくないもん。
子供への執着の愛は、夫や婚家からの理不尽な攻撃で、自尊心を傷つけられ、心身を満身創痍にした過去が、そうさせるんだよ。と、観ていたら、最後の方でそれが出てくる。やっぱりなー。ツルほどには苦労していない私だって、この猛々しいと言う言葉が生易しく感じるツルを、全否定出来ない。つくづく母とは業が深いもんです。
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09月26日(水)
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