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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「万引き家族」


是枝裕和監督が、カンヌでパルムドールを取った作品。私はカンヌ受賞作とは、あまり相性が良くないので、今回も期待値を下げて観ました。貧困・擬似家族を通じて、幸せとは何か?と、問うた作品。演技陣は大人から子供まで素晴らしかったですが、私は安藤サクラに釘付けでした。パルムドールより、彼女に賞を取って欲しかったなぁ。感慨深い描写、好きな描写も多々ありますし、手放しで絶賛ではないですが、秀作でした。

近代的な高層マンションや建売り住宅の谷間に、ポツンと残された古い平屋の一軒家。そこには母初枝(樹木希林)と息子治(リリー・フランキー、)妻信代(安藤サクラ)、信代の妹亜紀(松岡茉優)、孫の祥太(城桧吏)が住んでいました。日雇いの治、クリーニング工場にパート勤務の信代、そして初枝の年金で暮らしている一家は、足らない分は、何と万引きで調達していました。ある夜、万引きの仕事を終えた治と祥太は、団地のベランダに放りだされているユリ(佐々木みゆ)を見かけます。同情した治は、ユリを連れて帰ります。一晩だけと思っていたのが、ユリの両親の壮絶な夫婦喧嘩を見た信代は、ユリを我が家で面倒みようと決めます。

前半はもう疑問がいっぱい。初世の年金は11万ちょっとと、引き出した時言っていましたが、年金の振込みは、二ヶ月に一度。健康保険や介護保険を抜いて、月五万ちょっとくらい。治の日雇いで、少なく見積もって15万。信代のパートで8万くらいかな。合計28万。実際はもっとあるでしょう。祥太が学校へ不登校ではなく、通学していないらしい、親をお母さんお父さんと呼ばないなど、この辺で血の繋がった親子ではないと想像されます。設定は知りませんが、憶測ですが、健康保険・年金・税金など、滞納しているのじゃないかな。30万近くが全部使える。これ、貧しくないでしょう?それで万引きするわけ?シャンプーやカップラーメンが買えないの?そして絶句するくらい、家が汚い。

抜本的なリフォームは無理としても、ゴミ屋敷みたいな家を、片付ける事は出来るでしょ?畳を変えるお金がなきゃ、安い上敷きでもいい。去年新調しましたが、私は襖紙はホームセンターで買ってきて、自分で張り替えていました。とにかく汚い汚い汚い!見ていて体が痒くなりそうです。これだけいい大人が雁首揃えて、このだらしなさ。子供は学校に行ってないわ、可哀想だからと、役所に相談するでもなくゆりを住まわしてしまうわ、失礼ながら、その低能さに、呆れてしまいました。

なので、信代も虐待されていたので、ユリが手放せないのだろうと言う推測も、センチメンタルな音だけの花火鑑賞、お婆ちゃんも連れての楽しい海水浴(そして子供の水着も万引き)など、貧しくても楽しい我が家なんですよ、絆も強いんですよと、これでもかと見せられても、はいそうですよねとは、絶対私は言えません。こんなの、足を引っ掛けられて躓いたら、もう一巻の終わりじゃないかと、段々腹まで立ってくる。あまりに刹那的な生き方です。しかしここまでを描く間に、徐々にこの人たちは家族ではなく、赤の他人同士だと種明かししていくと、私の感想も変化していきます。

土方仕事での事故後、それなりに治癒している風なのに、仕事に行かない治。クリーニング工場をリストラされて、次を探さない信代。二人の過去が明るみに出ると、頷けるのです。この過去を持ち、仕事を探すのは至難でしょう。ひっそり世間から隠れて生きたかったのでしょう。初代と亜紀の間からも、私はお金ではないと思います。風俗店に勤める亜紀の源氏名の由来を知った時、この子の屈託を知りました。初代と亜紀は、愛する人から、「俺の人生にお前は要らない」と言われる絶望を味わった者として、同じ哀しみを共有していたのじゃないかな?


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06月07日(木)
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