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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「人生はシネマティック!」


すごく良かった!素晴らしい!ダンケルクの救出を描く映画作りの裏側を基本に、当時の戦局、男女格差、ロマンス、老いなど、あれこれ詰め込みまくって、全部きれいに料理できています。今を生きる女性たちへの、エールもいっぱいです。監督も女性のロネ・シェルフィグ。

1940年のロンドン。ダンケルクの救出劇で、双子の女性たちがいた事を知った政府は、国民の士気を高めるため、彼女たちを題材とした映画を製作しようと試みます。そこへやってきたのが、カトリン(ジェマ・アータートン)。カトリンはコピーライターの秘書で雇われたと思っていたのに、戦争で人で不足の折り、いきなり脚本を任されることに。驚きながらも、彼女をスカウトした情報省映画局の特別顧問バックリー(サム・クラフリン)やレイモンド(ポール・リッターと共に、執筆に励みます。公私共の紆余曲折を経て、果たして映画は完成するのでしょうか?

「アメリカの夜」など、映画作りの裏側を描いた作品は数々あれど、戦争中の国民の感情を鼓舞するための映画、と言うのは珍しい。結束も一枚岩ではなく、立場によっては、狐と狸の化かし合いみたいな時も。その時々で、脚本や台詞が変わるのは、しょっちゅう。時には名優だけど、老いて落ちぶれてしまったヒリアード(ビル・ナイ)の御機嫌も取らなくちゃいけない等々、想定内だけど、ニヤリとします。アメリカの横槍を仕方なく受け入れるも、イギリス紳士たちが、瀬戸際のプライドを固持しようとする気骨も良いです。

実は双子は船の故障でダンケルクまで辿り着けず、途中で兵士を拾ってイギリスまで帰ってきていました。真実を曲げることは出来ないと言う偉いさん方に、バックリーは「映画は所詮は虚構。大切なのは、危険を省みず彼女たちが、出航した事だ。一番大切な事を伝えるのに、フィクションが混ざるのは、当たり前」的は発言をします。これは本当に映画の本質だと思います。私が映画を浴びるほど観るのは、正にここです。

父親の叱責に怯える双子。第一次大戦に出征して、帰還後アルコール依存となり、暴力を振るうようになった父に、我慢するしかなかったバックリー。高圧的な父性をさり気なく描写するのは、今も続いている女子供の憂鬱なのでしょう。そして賃金の格差!「女性は男性より賃金が低いですが、構いませんか?」「はい、喜んで」。これは今も脈々と続く悪しき慣習です。

駆け落ちしてロンドンに出てきたカトリンは、傷痍軍人の夫エリス(ジャック・ヒューストン)の絵が売れず、生活苦から働いています。しかし夫は、彼女を養えなくなったから、国に帰れと言う。絶対に嫌なカトリンは、自分の甲斐性で夫の絵を買い、二人の暮らしを支えます。この辺りから、妻は自我に目覚め成長しているのに、エリスは気付かない。

二人のその後は、予想通り。養わなければならないと言う沽券と、傍らに自分に敬意を払い、賞賛する妻が必要なエリス。彼の中で共存するこの二つを描くのも、今でもエリス=最大公約数の夫、なのでしょう。攻撃的には描いておらず、これを紐解くと、トロフィーワイフを選択する夫の気持ちも解読できる。
女性の成長は、男性の成長の何倍速だとは、よく言われますが、妻は成長する生き物だと言う事を、エリスが認識して、それを喜ぶ人であれば、また違った展開になったろうに、と思います。

そこでバックリー。ヒーローとして双子を描きたいカトリンに対し、「女性はヒーローより、ヒーローの恋人になる方が好きだ。」と、のたまいます。カトリンも私も憮然。しかし、ちゃんと双子の役割は膨らませてくれました。そうそう、この歩み寄りが大事なわけで。


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11月27日(月)
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