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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「パーフェクト・レボリューション」


すごく複雑な思いを抱かす作品です。この作品は昨今取り沙汰される「障碍者ポルノ」と言う言葉を、圧倒してうっちゃりたかったはず。そこそこ上手く行っていたのに、それが一番大事なラストで、敵に寄り切られた風なのです。すごく残念。監督は松本准平。

幼い時に脳性麻痺を患い、四肢が不自由なクマ(リリー・フランキー)。中年の現在は、親元を離れて自活しています。生業は文筆業。障碍者の性に理解を深めようと、ネットや講演も活用しています。クマの講演を聴きに来た若い風俗嬢ミツ(清野菜奈)は、クマに一目惚れ。押しかけ彼女になります。最初は困惑していたクマですが、次第に打ち解け、お互いが誰より必要となります。しかし、クマを支えるはずのミツもまた、人格障害と言う心の病を抱えていました。

クマのモデルの熊篠義彦が、原案を提供しています。この人の事は、新聞やテレビで取り上げられていたので、少しは知っています。クマは講演ではエッチな事ばかり言って、ユーモアたっぷりですが、実際は良識のある大人の男性です。私の覚えている熊篠氏と、違和感無く重なりました。なので、え!?未だに障碍者に対して、こんな侮辱的な態度を取る人がいるのか?と、思いましたが、これは事実なのでしょう。最初はミツを迷惑がっていたクマですが、そんな失礼な輩に食ってかかり、暴力を振るった彼女に、「ありがとう。さっきは嬉しかった」と言う件は、胸を張って生きているように見えるクマでさえ、本当は世間に小さくなって生きているんだと感じ、辛くなります。

母親(丘みつ子)との間もそう。多分お互いがお互いに「すまない」と、思っているのでしょう。母親が、法事に派手な格好、ピンクの頭髪でいきなり現れたミツを、すんなり息子の恋人として受け入れたのは、息子の「人並み」が嬉しかったのでしょう。「人並み」は、親として子に与えてやれなかったもの。このお母さんがどんな気持ちか、これだけですごく良く表現出来ていました。

しかし、親は子供の障害の重みを甘んじて受けても、親戚や兄弟は違います。弟の嫁のよそよそしさ。無神経な叔母の発言。叔父の説教。どれもこれも、クマには煩わしかったはず。きっと母にも。だからクマは、自活の道を選んだんだね。弟は間接的な表現でしか描かれませんでしたが、一心に母の愛を受けたはずの兄への、複雑な気持ちがあったはず。兄が健常であれば、反発も出来たでしょうが、そうは出来ない、有無を言わさぬ雰囲気が、クマの家庭にはありました。弟はもっと掘り下げて欲しかった。

重要な人物に、クマの介護人の恵理(小池栄子)。長年介護してしるのでしょう、もう姉か母親のようになっている。近過ぎる関係に、それで失敗した
「セッションズ」を想起しましたが、恵理が既婚者であるのが、二人の防波堤になっていたのでしょう。以前、子供のいる脳性麻痺のご夫婦のドキュメントを観ましたが、奥様が泣きながら介護者(女性)に悩みを訴え、介護者が親友のように受け答えしていました。日本では、このような親密感は、仕方がないのかも。

強引なミツに引きずられ、でも精神的にはクマがリードして、二人が親密になり恋人同士になって行く様子が、とても自然です。その過程は、障害も年齢差も、全然関係ありません。障害者だからと言って、恋をしてはいけないなんて、思い込む必要はないんだと、訴えかけています。お互いがお互いの生き甲斐になって行くのですね。セックスに愛情は必要ないと思い込もうとしていたクマですが、そうではなかったと、きっと思ったはず。ミツもそうでしょう。私はずっとずっと以前に読んだ、どんなセックスが一番いいですか?と言う質問に、「好きな人とするセックスが一番」と答えた、風俗嬢さんが忘れられません。


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10月09日(月)
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