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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ボンジュール、アン」


この作品のヒロインを演じるダイアン・レインは、私が一番好きな作品「リトル・ロマンス」で、映画デビューを飾りました。だから、私にとって特別な女優さんなわけ。近年お母さん役や、主人公の良妻役で存在感を示す彼女の、久々の主演作なので、勇んで初日に観てきました。出来は平凡ですが、ヒロインと同年代の私くらいの人なら、あ〜、わかるわ、この気持ち・・・と、共感でき、全体に品よくまとまっている点と相まって、好感の持てる仕上がりです。監督はフランシス・フォード・コッポラ夫人の、エレノア・コッポラ。

著名な映画プロデューサー、マイケル(アレック・ボールドウィン)の妻アン(ダイアン・レイン)。多忙な夫とはすれ違いが続くも、夫婦仲は円満です。夫と共にカンヌ映画祭に来た彼女は、その後夫とのバカンスを楽しみにしていましたが、夫は仕事で、急遽ブタベストに行く事に。耳の調子の悪いアンは飛行機を止めて、先に電車でパリに行くと言いますが、マイケルの仕事仲間で友人のジャック(アルノー・ヴィアール)が、車で彼女をパリまで送ると言います。最初は固辞したアンですが、マイケルの勧めもあって、送って貰う事に。しかし人生を楽しむパリジャンのジャック、数々の寄り道でアンを「接待」。無事パリまで到着するのでしょうか?

観る前は、熟年版「フォロー・ミー」みたいなお話かと思っていました。それが至って夫婦仲は良く、アンは子育ても仕事も一段落。今までそれなりに充実していたようです。そして寂しげなミア・ファローの笑顔だけが見たくて、あちこち連れ回したトポルと違い、ジャックはアンに、気が有る様子を隠しません。人生は楽しむためにあるんだよとばかり、アンを観光に連れまわすジャック。

それがお話が進むに連れて、幸せなんだけど・・・と、アンが託つ一抹の寂しさを、自分自身で見て見ぬふりをしてきたのが、わかってきます。夫は再々電話をくれるも、結局は「薬はどこにある?」「君がいないと、靴下の合わせ方もわからないよ」。そして、妻が電話しても、留守録はいっぱいで入らない。もちろん「愛しているよ」は言いますが、アメリカ人のそれは、朝夕の挨拶みたいなもんだからね(笑)。

いやいや、「愛している」は、夫の本心です。しかしそれは、母親のように、家族としてとしての意味が強いのではないか?と、妻は感じている。だけど時々夫に戻るので(笑)、妻は円満なのだから、波風立てずにまぁいいか、とやり過ごす。なので、妻が何も言わないから、夫も妻の不満に気付かない。そして益々鈍感になり、妻がプレゼントした腕時計を、他人にあげたりしちゃう。熟年女性を扱う作品を観ると、夫とは善良であっても、世界規模で鈍感なんだなと思います。

それが、最初は不承不承だった、ジャックの寄り道のお陰で、観光地を巡り、美味しいもの食べ、道端の草花を愛で、そうよ、本当は夫とこうしてのんびり旅したかったのに、と、アンに自分を振り返らせるきっかけとなります。そのゆとりある時間は、心に豊かな感情をもたらしてくれたのでしょう。そしてガイド男性は、若い女に不自由していないようなのに、熟女の自分に思い切り気がある。もうこりゃ、気分良くないわけはない(笑)。

美味しそうなフレンチばかりで、と言いたいところですが、私はフレンチは少々苦手。ワインも飲めないので、ジャックの語る薀蓄も、アンと同じで退屈なだけ。この辺は好き好きで、楽しめる方もたくさんいるはず。フランスのあまり紹介されることのない、素朴な景色はとても素敵でした。

でも一番素敵だったのは、アンを演じるダイアンです。現在52歳、子役から出発して、浮き沈みを経験しながら、ハリウッドで堅実に今の立場を確立した彼女。40過ぎから皺が目立ち、これは整形するかも?と危惧したのですが、以降なだらかに老化。皺も女の年輪よとばかり、美貌も健在です。これは内面の充実からくるものだと思います。ファッションもシックで上質なものから、旅行に適した落ち着きのあるカジュアル、ディナーの時のドレスアップなど、お手本にしたいような物ばかりで、とても参考になりました。


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07月09日(日)
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