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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ミス・シェパードをお手本に」


明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

何と一か月ぶりの映画です。12月中旬からの体調不良が長引き年末年始に突入。今もすっきりしません。こんなにしつこい風邪は、記憶にござらん。子宮筋腫の時でも、術後二週間で家族に内緒で劇場に向かったこの私が!そんな中、何とか4日に観てきました。老女が主人公の作品ですが、湿っぽく描いていません。ユーモアの中に真心とペーソスを滲ませ、始終クスクス笑ったり、時折涙ぐんだり、大変楽しめました。監督はニコラス・ハイトナー。劇作家のアラン・ベネット(今作品の脚本も彼)の実体験を元に描かれた、実話です。

ロンドンのカムデン、グロスター・クレセント通り23番地。文化人が多く住むこの地に引っ越してきた劇作家のアラン・ベネット(アレックス・ジェニングス)。程なくして、ミス・シェパード(マギー・スミス)と呼ばれる老女の存在を知ります。オンボロのバンをねぐらにする彼女は、ホームレス。悪臭をまき散らして街を練り歩く彼女でしたが、不思議と住人達は彼女を受け入れ、共存していました。ある日、とうとう退去命令が出て、途方に暮れた彼女を見かねて、ベネットは自分の敷地の一角を貸すことに。ほんの数か月のつもりだったベネットですが、ミス・シェパードの滞在は、実に15年続きます。

冒頭、事故を起こしたような、過去のシェパードの姿が映され、これがホームレスになった起因であるのは、明白でした。以降笑っては観ましたが、結構壮絶な腐臭に満ちた場面が続出。作品に品を失わせない、的確な演出だと思いました。

あちこちでミス・シェパードの「臭い」に、閉口する人々。これね、私も経験あるんです。精神科の医療事務をしていた時、そりゃ匂いには、悩まされました。病のため整容の出来ない患者さんが多く、特に顕著な人が帰った後は、消臭スプレーが欠かせませんでした。それも室内用ではなく、トイレ用(笑)。
この辺りで、どんな臭気か想像いただけましょうや?

NO・1だったのが、やはり70代の女性でした。その人が来院すると、ずっと口で息しなきゃいけない程でした。しかし付き添いのヘルパーさん(女性)は、ニコニコと会話して、手はつなぐわ、脇を支えるわの適切なアシストぶりに、職員一同驚嘆。もちろん私たちだって、「臭い」と言う顔はしませんよ。でもあれは出来ないなぁ。「あの人、ほんまのプロやなぁ。凄いわ」と、称賛したものです。

それと似たような場面が、この作品にも出てきて、救急隊の職員に対して、付き合いの長い自分も出来ないのにと、ベネットは敬意を覚えます。それと排泄。不潔なシェパートが勝手にトイレを使用するのに、ベネットが怒ると、今度は便を庭にまき散らす彼女(笑)。溜息つきながら処理するベネットは、シェパートどの付き合いの中で、「介護とは排泄処理」と悟ります。どちらも人としての根っこの部分。大げさではなく、尊厳だと思います。そこが失われた人を、人として尊重出来るのか?いや、しなくちゃならないんだ。私が仕事場で学び、ベネットはシェパードを通じて学ぶのです。

ベネット以外にも、シェパードを気遣い、何くれとなく世話をする住人たちに、可愛げのない悪態をつく彼女。いやはや(笑)。それでも苦笑しながら、子供までが彼女受け入れる。それも深入りせず。時々悪口言うのは、ガス抜きですね。素敵な街だと思いました。このコミュニケーション術は学びたいです。

ベネットは認知症の母がいて、彼女を題材に戯曲を数作書いており、少々後ろ暗い。他のエンタメ的作品も書かなくちゃと焦っている時、現れたミス・シェパード。老女専門劇作家になる危機感を覚えながらも(笑)、作家としての好奇心もあったでしょう。


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01月07日(土)
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