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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「マダム・フローレンス!夢見るふたり」

この昨品の予告編を最初観た時、こんな手があったとは・・・おぉ〜おぉ〜!と膝を打ったもんです。ロマコメキングのヒュー・グラントですが、容姿の劣化が囁かれて久しく(御年56歳)、最近は手を変え品を変え、スパイ組織アンクルの偉いさんを演じたり、ロマコメは、相手役を同年齢の芸達者の美熟女、マリサ・トメイを選んだり、何とか踏ん張っていました。でも今回は皺もシミもぜんっぜん隠さなくてOK。だって相手は70近い「オバアサン」だもん。でもこのオバアサン、そんじょそこらのオバアサンじゃござんせん。映画史に燦然と輝く大女優メリル・ストりープ!彼女相手に脇役ではなく、堂々のツートップです。何でも監督のスティーブン・フリアーズは、直々にヒューに出演をオファーしたとか。なるほど、観れば納得。この作品の成功の鍵は、夫役でした(メリルは失敗するわけない)。風変りな、でも真摯な夫婦愛を描いた素敵な作品です。
1940年代のニューヨーク。社交界の花形マダム・フローレンス(メリル・ストりープ)は、莫大な財力を、様々な音楽活動のパトロンとなりつぎこんでいました。重篤な病を抱える彼女にとって、音楽は生き甲斐。それを知る夫のシンクレア(ヒュー・グラント)は、彼女を温かく見守ります。だがしかし!声楽家としてレッスンに精を出す彼女ですが、実は驚異的な音痴。シンクレアが、必死の賄賂で周囲を買収しているものだから、軽コンサートはいつも大評判。彼女は音痴であることを全く知りません。伴走者として、ピアニストのコズメ(サイモン・ヘルバーグ)も見つけたフローレンスは、次はカーネギーホールで歌いたいと言い出したから、さぁ大変!
フローレンスとシンクレアは、夫婦と認識されていますが、多分内縁だったのでしょう。実は最初の結婚で、当時の夫から梅毒を映されたフローレンスは、今もってその後遺症に悩まされ、死と隣り合わせの日常なのです。音楽と夫の献身が、彼女の生を持ちこたえていました。
シンクレアにも秘密があり、ホテル住まいのフローレンスが眠りにつくと、彼は自宅へ。そこには愛人のキャサリン(レベッカ・ファーガソン)が。早朝、フローレンスが目を覚ますと、そこにはシンクレアが。なるほど、彼は夫であり執事であるわけです。妻の梅毒の為、「夫婦」として20年過ごしながら、一度も性交渉がない二人。キャサリンにとったら、仕事に出かけた夫が、帰宅するようなもんです。
シンクレアはお金目当てなの?これ、夫婦愛を謳いあげる作品なんじゃなかったっけ?と訝しく思って観ていたら、段々とヒューをキャスティングした意味がわかってきました。
寄付を懇願する人々に大盤振舞いのフローレンスですが、周囲の人々は、本当にお金目当てだけで、彼女に近寄ってきたんでしょうか?私は違うと思います。天真爛漫で、年齢に似つかわしくない童女のような愛らしさ。梅毒と言う当時は不治の病を得ながら、純真で汚れのない魂を持つ彼女と接すると、自分まで明るく元気づけられたから、彼女の周囲には、いつも人だかりだったんじゃないかな?
小心者でお人好しのコズメは最初、こんな音痴の伴奏をしたら、自分のキャリアは終わってしまうと思い悩みます。でも彼女の人となりを深く知るようになると、「”二人で”頑張りましょう!」と、彼女を激励するまでになるのです。キャリアの終焉よりも、憧れのカーネギーで、一度でも演奏できたことを心底喜べるようになる。視点を変えると、喜びも哀しみも、別物になるのよね。
成金富豪の後妻のアグネス(ニナ・アリアンダ)は、最初フローレンスを歌を聞いて、爆笑で床を転げまわる失礼千万な奴ですが、彼女の歌に罵詈雑言の輩に、「一生懸命歌ってるんだよ!彼女に敬意を払いな!」と一喝するのです。品はないけど、この気風の良さに、年の離れた成金氏は惚れたのでしょうね。決してお尻やおっぱいじゃないと思うわ(笑)。アグネスの啖呵は、胸がすく思いでした。
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12月10日(土)
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