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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「17歳」(オンデマンドで視聴)

大阪は連日35℃超えで、ヘロヘロです。今夏絶対観たかった作品は観てしまったので、大人しくしています。その間オンデマンドで観たのが、「ディーパンの闘い」と「17歳」。両方観たかったのに、時間が合わず見逃した作品です。「ディーパン〜」もそこそこ良かったのですが、期待値の低かった「17歳」の方が素晴らしく、劇場で見逃したのが本当に悔やまれました。監督はフランソワ・オゾン。
17歳の進学校に通うイザベル(マリーヌ・ヴァクト)。両親の離婚後、医師の母と弟と暮らし、経済的にも何不自由ありません。6年前に母と再婚した義父とも、可もなく不可もなく接しており、特に問題があるわけでもありません。家族揃ってのバカンスで、ハンサムなドイツ人と一夜を共にしたあと、何事もなかったように、フランスに戻るイザベル。しかし彼女はその後、自分のサイトを作り、そこで売春の相手を探します。年齢はいつも年の離れた男ばかり。その中の一人の老人ジョルジュと懇意になった彼女ですが、ある日いつものように体を重ねていた時、ジョルジュが亡くなります。その事から、イザベルの売春が母に露見することになります。
とにかく主役のイザベルを演じるマリーヌ・ヴァクトが素晴らしい!心身のバランスが取れない思春期の少女の、獰猛で野蛮、そして幼さからくる純粋さを、余すところなく表現しています。いつも堅い服装、ノーメイクなのも、「売春する女子高生」のイメージからは程遠く、憂いのある美貌と相まって、一層イザベルをミステリアスに感じさせ、この造形もすごく魅力的です。
謎の売春行為をするイザベルですが、作中明確にその理由は明かされず、観る者に委ねられます。バージンの頃から、彼女に性的な欲望がある事は描かれます。しかし何人の男と体を重ねても、彼女は「全然良くない。でもまたすぐしたくなる」と、精神科医に答えます。それは愛情のあるセックスをしたことがないからなんだよ、と私は思う。彼女は好きな人とは、一度もセックスした事がない。
肉体的にも精神的にも渇きを癒すのは、イザベル的には売春だったのでしょう。そこには父性の不在もあったはず。欧米は離婚後も実の両親と頻繁に会う機会が豊富ですが、作品中娘の一大事なのに、実の父親は一度も姿を見せず。義父はイザベルには普通に接しますが、ケアは主に妻(イザベルの母)に向けられます。だから年の離れた男ばかり客に取ったのだと思いました。
母には、元々反抗的だったイザベル。思春期だと言う事を差っ引いても、イザベルの気持ちはわかる。ちょうど娘が難しい時期に再婚し、母自身も新しい夫との構築に気を配らなければならなく、娘の方にも手が回らなかったのでは?
職業的な忙しさもある。「金銭的には不自由させなかった」と警察官に語る母は、それが子供たちへのプライドだったのでしょう。セックスでお金を受け取るイザベルの価値観は、自分の美しい容姿と若さへの相手からの代償と思うのと、同じだと感じます。
何故だか親友夫婦にイザベルの売春を話した母。こう言う俗なところも、娘は嫌なのでしょう。親友がイザベルを警戒して、夫から遠ざけようとする。あろうことか、母までもイザベルの義父である夫を遠ざけようとする。監督、意地悪だなぁ。若さへの嫉妬ですね。これは「商品価値」がなくなったと自覚している彼女たちを、計らずも露呈させています。もう一度言います。この演出は意地悪だ(笑)。
もう二度と売春はしないと精神科医に語るイザベル。反省しているのではありません。「私がジョルジュを殺したから」と、初めて涙を見せる彼女。傷ついているイザベルにとって、ジョルジュは他の客とは違ったのでしょう。「好き」だったのですね。
その好意がどこから来るのか、ふとした事からジョルジュの老妻アリス(シャーロット・ランプリング)と会い、謎が解けました。「ジョルジュは元から病気だったのよ」と、イザベルを気遣うアリスの眼差しは暖かい。「私も昔あなたのようにしたかった。でも勇気がなかったのよ」と微笑む。あぁと腑に落ちる私。
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08月21日(日)
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