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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「葛城事件」
この画像、どこかで見覚えありませんか?

「僕たちの家族」そっくりなんです。


妻子のため、一生懸命マイホームを手に入れた父親、子供は男の子二人に美しい妻。全く同じなのに、まるで真逆の道を辿ります。希望と絶望。相反する言葉は、表裏一対であると感じ、誰もがどちらにでもなり得るのだと、噛み締めるように観た作品です。監督は赤堀雅秋。

親から引き継いだ金物店を営む葛城清(三浦友和)。愛らしい妻伸子(南果歩)と長男保(荒井浩文)と次男稔(若葉竜也)にも恵まれ、25年前郊外に一戸建ての家を購入しました。しかし、それが清の人生のピークでした。現在は通り魔事件を起し、死刑判決を受けた稔を抱え、近所から村八分状態。そこへ死刑反対の意思を持つと語る順子(田中麗奈)が、稔と獄中結婚をしたと、保を尋ねてきます。

独善的で家族を抑圧する清を軸に、反抗する出来の悪い稔、夫を恐れながら毛嫌いする伸子、唯一父の味方でありながら、誰にも本心を伝えられない保の心模様が、時空を超えながら、交錯して描かれます。

四人が四人とも、誰が観ても欠点をあげつらえるような人間ばかり。しかしデフォルメはしてありますが、四人とも実にありふれた、どこにでもいる人なのです。特に清の姿には、どことなく共感する中年以上の男性は多いのじゃないかしら?既視感バリバリの人たち。と言う事は、この四人に、誰もがなりうる可能性があると言う事です。

清は私より少し上の世代でしょう。私が子供の頃は、ホームセンターなどなく、家庭で必要なものは、全て金物屋で調達していました。事実近所の金物屋は、大変な金持ちだと評判でした。順調な家業を息子に継がせたいと思ったのは、当たり前です。

しかし時代は変わる。こういった生業の人は、PTAの役員をしたり、町内会の世話役をしたりして、その縁を活用し、何とか店を持ちこたえるものですが、尊大な清には、その才覚はなかったと思います。上司も部下も同僚もなく、日長一人で店番をする清。一見筋が通っているような彼の理屈は、書物で学んだのではなく、新聞や雑誌、テレビで仕入れたものなのでしょう。実践感がまるでない。引きこもり日長ネットに噛り付いて、ふらふらとした傲慢な屁理屈を並べる稔は、父親そっくりです。

清は、会社勤めに憧れた事でしょう。それが出来の良い保に、絶対に会社勤めをしろと言った理由です。しかしそれが、将来の夢を持つことが許されなかった自分と同じとは、気付かない。子供に自分と同じ安定した道をと思う親心と、自分のようになって欲しくないと言う相反する思いが、同じ意味を持つ皮肉。「お前のため」。それは子供の自由を奪う事なのです。

子供とは、親の役に立ちたい、喜ばせたい。そう思うものです。保は自分の気持ちを押し殺したのではないか?兄より出来の悪い稔は父親から差別され、それがコンプレックスで父に反抗を重ね、兄を憎悪する。その時母の伸子はどうしたか?

最初私は、こんな男じゃ愛想も尽きるなと思いましたが、そうだろうか?観ているうちに、この家庭の「戦犯」は、彼女だと思いました。劇中食事の場面が、たくさん出てきますが、どれもこれも店屋物やコンビニ弁当、外食ばかりです。主婦が食事を作らなくなるのは、家庭に家族に愛情が無くなった時です。稔の悪行や出来の悪さを必死で庇う伸子ですが、稔の屁理屈には、曖昧な笑顔を浮かべるだけ。庇うだけで、息子を励ましたり肯定したり叱ったりは、一切ないのです。

伸子は家庭に疲弊していたのですね。もっと言うと夫に。しかしね、家庭の主婦はそれじゃダメなんだよ。父の日が近づいたある日、三男に「父の日って、プレゼントの売り上げ、母の日の1/3なんやって」と何気なく言うと、「そらそうやろ。両親揃ってて、お父さんの方が好きなんて、子供が可哀想過ぎるわ」。一瞬胸が詰まりました。有難くて。


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06月23日(木)
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