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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ルーム」

本年度アカデミー賞主演女優賞作(ブリー・ラーソン)。ブリーの演技もさる事なら、息子ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイが素晴らしい!実質二人が主役です。これだけの名演技なのに、何故ジェイコブはノミニーにもならなかったのかしら?特異な背景を用いながら、母と子供の幸せとは何か?を、深々考えさせられる、素晴らしい作品です。監督はレニー・アブラハムソン。
7年間見ず知らずの男オールド・ニック(通称)の納屋に拉致監禁されたジョイ(ブリー・ラーソン)。その間にニックの子、ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)を産みます。息子にありったけの愛情を注ぎ、育てるジョイ。ジャックが5歳になったのを機に、監禁から脱出しようと捨て身の作戦を立てます。
冒頭笑顔も交えて、母と息子の情愛が描かれます。監禁状態であると言う事を忘れさせるような、慈愛に満ちた姿。この状況で、これだけの養育が出来るのは、ジョイ自身が愛情に満ちた父母の元で育ったと想像しました。それがニック登場で、一気に凍りつき、現実に引き戻される。この落差は効いていました。
ジャックは賢い子ですが、まだ五歳。今まで教えたなかった事実を息子の話すジョイ。聞きたくないと泣いて訴えるジャック。怖い話、哀しい話は聞きたくないのです。この反応は観ていてとても辛い。そして、確かに子供はこういう反応するよなぁと、私も子育てしていた遠い日を思い出しました。
脱出劇が本当にハラハラします。その辺のサスペンスを軽く凌駕する出来。初めての外の世界で、青空を見つめるジャックの表情が秀逸。首尾よく警察に繋いでからの、茫然自失のジャックの様子も、確かに子供はこうなるでしょう。脚本は原作と同じエマ・ドナヒュー。本当にこの年頃の子供心が、細部に渡って描き切れているのです。これは子供の存在を愛し、関心を持つ人の描き方です。感嘆しました。それを的確に演じるジェイコブにも、感心します。
凡百の作品なら、これで終わりでしょうが、この作品の値打ちは、むしろこれ以降。ジョイとジャック親子が、忌まわしい体験を経て、やっと自由の身になってからの出来事でした。
やっとの思いで恋しい両親と再会したら、二人は離婚。母(ジョアン・アレン)には既にパートナーのレオ(トム・マッカムス)がおり、父(ウィリアム・H・メイシー)は、遠く離れて住んでいました。戸惑い裏切られたように傷つくジョイ。しかし両親の離婚は、誘拐か家出かわからない状態のまま、娘が消えてしまった事が原因ではないかと思いました。すぐにジャックを抱きしめる母に比べ、娘の顔も孫の顔も、まともに見られない父。
あぁ、父親って脆いなぁ。ジョイが正気を保てていたのは、ジャックの存在だけではなく、もう一度両親に会いたかったからです。夢見るハイティーンだった娘が汚され、孫はその結果です。自分の娘に何の罪科もない事は、充分理解しているはずなのに、抱きとめてやれない父親。ジョイを救出出来たのも、ジャックの様子に何かを感じた婦警が、辛抱強くジャックの心をほぐしていったからです。男性警官は面倒くさいのか、質問さえしようとしませんでした。
私は男性や父親を責めているのじゃありません。事実レオは良き人で、血の繋がりがないぶん、ジョイとジャックが手助けが必要な状態だと認識して、陰から支えています。それでも子供の存在に対して、母親や女性の感受性は、圧倒的に男性より優れているのだと、作り手は言いたいのだと思う。それは主に、女性たちへ、その持てる特性を自覚して欲しいと言う事じゃないでしょうか?
全く外の世界を知らずに育ったジャックでしたが、段階を踏まえ、世間に馴染んでいきます。子供の柔軟さを改めて痛感。対するジョイは、7年間の空白に対して、適応できない。変わってしまった母に対して、母子二人きりの濃密な空間だった納屋を懐かしむジャックが、切ない。
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04月15日(金)
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