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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「6才のボクが、大人になるまで」


延ばし延ばしになっていたのを、やっと観ました。12年間の家族の変遷を、同じキャストで描くと言う実験的で画期的な作品。今年のオスカーの作品賞の有力候補作と言う事で、ロングラン上映中となったのでしょう。お蔭で見逃さずに済み、本当に良かった!監督はリチャード・リンクレイター。

テキサスの片田舎に住む6歳の少年メイソン(エラー・コルトレーン)。母のオリヴィア(パトリシア・アークエット)は風来坊のような父メイソンSr(イーサン・ホーク)と離婚。姉のサマンサ(ローレライ・リンクレイター)との三人暮らしですが、母はキャリアアップのため大学への入学を決意。実母に手伝って貰うため、ヒューストンに引っ越します。母の新しい恋、継父、メイソンの恋や姉弟の進学、そして父との交流など、一家の12年が描かれます。

私は長い映画が大嫌いで、この作品も三時間足らずなので、些か怯んでいたのですが、これがあっと言う間。何年後とかメイソン○○才など挿入されるのかと予想は、いらぬ心配でした。子供たちの成長していく姿が、如実に時の流れを表しています。

母に連れられ、あの町この町と転々とし、中々安住の地が決まらぬ子供たち。友人との出会いと別れを繰り返し、時には怒りを爆発させるものの、我慢して一生懸命に母に付いていく姉弟。その健気さに胸がいっぱいになる。その間に数々の恋をするオリヴィアは、一見子供を振り回しているようですが、彼女の心の底では、いつも「子供たちが一番大事」の気持ちがあるのが、画面から伝わってきます。観客がわかるくらいですもん、子供たちにもその自負はあったはず。

オリヴィアの恋は女を優先させたのではありません。女性として母親として、両方の豊かさを目指しているはずが、どうも生来のダメンズ好きで男を見る目がない。むしろ彼女の選択は、母親を優先させた結果だと感じました。男は捨てても子供は捨てない。男とダメになったから子供を思い出す母親とは、根本的に違うのです。

それが証拠に、彼女は大学で教鞭まで取るようになる。それは三人の生活の経済的安定のためのはず。夫がいても大変な事ですよ。出来ちゃった結婚して、一向に大人になってくれない夫に見切りをつけ、逞しいシングルマザーとなり、女の哀歓に満ちた寄り道をしながら、子供二人を懸命に育てあげたオリヴィア。立派な母親の、女の人生ではないですか。同じ母親として、私は彼女を褒めてあげたい。

そして別れても子供を忘れないのは、父も同じ。子供二人との交流を欠かさず、見守ってくれる実の父に、家庭が不安定な中、息抜きと言う形で、姉弟はどんなにか支えられたはず。それは二人が大人になってわかる事だと思います。そして子供を忘れなかった事が、父にも人としてのプライドを残したはず。それが再婚して、また子供を作ると言う事に繋がったんじゃないかなぁ。

メイソンが18歳になった時、父は「今の自分は腑抜けだ。お前のママが望んでいたような」と、自嘲気味に息子に語ります。果たせぬ夢をあきらめ、自分に折り合いを付けて大人になるには、同じ年のオリヴィアより、実に十数年かかったのでしょうね。言外にオリヴィアとの復縁を望み、果たせなかった後悔が滲みます。

女性はよく男性より成長が早いと言われます。私の実感も三倍速かな?母親となると更に加速するのは、それは女性には子供を産む適齢期があるからじゃないかと、メイソンの両親を観て思いました。「今から子育てね。大変だわ」とかつての夫に語る元妻は、作品冒頭の愛らしさは影を潜め、立派な熟年女性の貫録を匂わすのに対して、元夫の方は容姿はさほど変わらず、むしろ渋さを身に付け男を上げています。男性は40代でも50代でも父親になるのが可能なに対して、女性のタイムリミットはほぼ40まで。本能的に女性は成長を即さないと、子育てに支障をきたすのを、知っているのかもしれません。


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01月31日(土)
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