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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「her 世界でひとつの彼女」


人工知能と人間の男性の愛を描く作品。本年でアカデミー賞脚本賞受賞作。個人的にオスカーは脚本賞が一番面白いと信じているので、この作品もすごーく期待しましたが、う〜ん。悪くないけど、めでたさも中くらいってとこかな?
監督・脚本スパイク・ジョーンズ。

近未来のLA.大切な人への手紙の代筆を生業としているセオドア(ホアキン・フェニックス)。現在離婚調停中で、妻キャサリン(ルーニー・マーラ)とは別居中。ある日新しい人工知能のOSを手に入れ、声の選択を女性としたところ、現れたのはサマンサ(スカーレット・ヨハンソン)。ユーモアとインテリジェンスのある彼女との会話を楽しむうち、一人とひとつは、恋に落ちていきます。

ホアキンは顔が濃くて、どちらかと言えばアクの強い顔。それが眼鏡をかけて口ひげを生やせば、あら不思議。気弱でちょっと根暗な雰囲気が出て、冴えない中、繊細で知的な風貌になるんです。このメイクは大成功でした。

口述でパソコンに向かい手紙を「書く」セオドア。「削除」と言えば簡単に消えるし、スマホには何でもインストール。家に帰れば部屋いっぱいを使ったテレビゲームが出来て、何だか楽しそう。自分の子供の頃と今を比べると、実現はそう遠くない未来に感じます。でもスマホに向かって、皆が口々に話しかける様子は、奇妙でもあります。

妻との別居で無聊を託つセオドアの心の隙間に入ってきた、サマンサと「逢瀬」。秘書的な優秀さと会話の妙で、セオドアがサマンサに魅了されるのは納得出来ます。でも納得できる最大の理由は、サマンサを演じているのはスカヨハだと認識しているからだと、個人的に思いました。声の向こうに、どうしても彼女の姿かたちを想像してしまうので。キャスティング的には正解だと思いました。

スマホにもインストールされたサマンサを連れて、どこでも出かけるセオドア。起動さえすれば、二人はどこでもいっしょ。なので楽しい会話も成立するし、感情も共有出来ます。デートは一人分のお金で済むしね(笑)。セックスも、見知らぬ女性とのテレフォンセックスは不首尾に終わったセオドアですが、サマンサとのイマジネーションセックスには満足。それは「ふたり」に心の結びつきがあって、愛情と信頼のある関係であると表現しているのだと思いました。

と、ここまで書いて、じゃあ何が文句あるのかと言うと、やはり人工知能との恋愛関係は奇異に感じるからです。彼女が感情や人格を持つというのはいいんです。セオドアの事を思い、意見するのもいい。例えば「バッドマン」のブルース・ウェインと執事フレッドは、主従関係にあるも、父と息子のような関係でもある。時にはブルースを真に想い、怒りに燃えてお暇だって申し出るフレッド。これを絆だと感じるのは、生身のぶつかり合いを感じるからです。

昔「ナイトライダー」と言うアメリカのドラマがあって、それにも車に人工知能が内臓されてあって、持ち主を助ける人工知能の良き相棒ぶりは、微笑ましくも頼もしくも思いました。しかしこの作品の人工知能「たち」は、勝手な行動が多すぎる。他人の人工知能と恋する人がいると言う事は、持ち主とは相性が合わない人工知能もあると言う事ですよね?

現にこの作品のサマンサも、セオドアのパソコンに内蔵された秀逸な手紙を選んで、出版社に勝手に送ったりする。「あなたのためよ」と言う事でしょうが、これって他人が書いたことになっている手紙ですよ。代筆業者としての守秘義務は?それが切なさを感じるアイテムとして使われている事に、とても違和感があります。

相手は優秀な人工知能。おまけにパソコンやスマホ内は個人情報だらけ。人格と感情を持つ人工知能が、持ち主に悪意を持ったならば?とんでもないでしょう?


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07月06日(日)
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