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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「そして父になる」

今年のカンヌ映画祭審査員賞受賞作。私はカンヌで受賞した作品は、あまり合わないので、そう聞いても期待値上げないで観たのが良かったです。監督の是枝裕和は、子供を描くのがとても上手い人ですが、今回それ以上に二人の母親の溢れる母性を、とても丹念に、そして的を射て描いており、感嘆しました(脚本も監督)。お蔭でテーマである「そして父になる」福山パパの成長に、あまり感動しなくて困りました。おいおい泣き通しでした。
順風満帆の人生を歩んでいる野々宮良多(福山雅治)。妻のみどり(尾野真千子)と一人息子慶多(二宮慶多)と、東京の一等地のタワーマンションに住んでいます。ある日みどりが出産した病院から連絡があり、慶多が取り違えられた子供だと言うのです。相手は群馬に住む電気店を営む斎木雄大(リリー・フランキー)ゆかり(真木よう子)夫婦の長男琉晴(横升火玄)。両家は話し合いの元、まずは週末だけ子供たちを、本当に親と一緒に過ごさす事にします。
冒頭小学校お受験の風景が。夏休みは父とキャンプに行って凧揚げをしたと答える慶多。面接が終わって、「キャンプは行ってないのに、どうして言った?」と聞く良多に、慶多は「塾で教えてもらった」と邪気なく答えます。もうこの時点から、監督は野々宮家に少しの嫌悪感を滲ませています。
毎日帰宅は遅く休日も仕事で、家庭の事は全て妻に任せて、子供と接する事の少ない良多。みどりは不満がいっぱいですが、古風な考えの人なのでしょう、良多の言いつけ通りの子に育てたいと、一心に愛情を注ぎ子育てしています。しかしマンションはモデルルームかホテルの一室のようで、まるで生活感がありません。一生懸命みどりが巣作りしても、「母と息子」二人では、広すぎるのでしょう。
対する雄大は、お金にはみみっちく甲斐性なしですが、子供3人を実によく世話をし遊びます。私が好感を持ったのは、家族サービスではなく、自分も楽しんで子供と遊んでいる事。彼自身が子供だとも言えますが、こういう光景を見て、嬉しくない妻はいないでしょう。そして認知症の妻の父親とも快く同居しており、一人家に置いてきた父親のため、忘れずに「カツカレー一つ」と注文したのは、ゆかりではなく、雄大でした。家はあばら家で、ゆかりも容赦なく子供を怒鳴る、がさつな肝っ玉母さんですが、温かくたくましい生活感が溢れています。
私が上手いなぁと思ったのは、慶多は大人しくお行儀よく、琉晴はやんちゃで元気いっぱい。その家庭に似つかわしい子に育っていた事です。子供とは環境だなと思います。
こんな対照的な家なのに、母二人はまるで姉妹のように、同じ感情を共有します。6年間手塩にかけて育てた「他人の我が子」が、愛おしてく堪らないのです。子育てした人ならわかると思いますが、子供が一番可愛い時期だと同時に、自分を母親にしてくれた6年のはず。一心に自分を愛し求める子供に応えようと、夢中で日々を過ごしたはずです。この記憶は、例え子供が他人だったとしても、決して消せないものです。子供の交換に躊躇するゆかりに、良多は「血が繋がっていなくても育てられるのか?」と問いますが、「子供と繋がっている自信があれば、育てられる。そう思えないのはそうじゃない父親だけだ」と、きっぱり言い返します。全くその通り。ゆかりは答えながら、自分の夫は育てられる人であると、誇らしかったかも知れません。
劇中何度も泣くみどりですが、私が一番泣かされたのは、帰宅の電車の中で慶多を抱きしめ「二人でどこかへ行ってしまおうか?」と言うシーン。家庭を顧みない夫に不満を持っていたでしょう。しかしそれを忘れるかのように、懸命に子供を愛した育てた日々は、同時に夫と繋がっていると確信出来る日々でもあったはず。慶多は他人の子である、みどりはそれを否定されたのです。しかし慶多を愛した日々は本物。夫の子でないなら、自分ひとりの子として、誰も知らないどこかに行って暮らしたい思うのは、当然です。書いててまた涙が出ちゃうわ。
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09月28日(土)
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