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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(2D字幕)」
びっくりしました。想像していたのと全然違う映画でした。虎と人間が海に放り出されて漂流して、一緒に227日過ごすなんて、有り得ないでしょう?なので、陸へ生還するまでを、「野生のエルザ」風に、虎と人間の心が通う描き方なのかと想像していていました。確かにそう言う部分もなきにしもあらず。しかしこの作品は、ある仕掛けがあり、そこで唖然とするのですが、再び虎とパイの漂流生活を思い浮かべると、あれもこれも、そういう事だったのか・・・と、一層深く感じ入るようになります。荘厳で崇高な作品。とても感動しました。監督はアン・リー。今回チョイネタバレです。

カナダ人作家(レイフ・スポール)は、小説を書くため、インド人のパイ・パテル(イルファン・カーン)の家を訪れます。そこでパイが体験した、驚愕の冒険を聞くことになります。パイは16歳の時、動物園を経営している父や家族と一緒に、動物ごとインドからカナダへ移住することに。しかし渡航の途中で嵐に合い船は転覆。家族の中で彼だけが救命ボートにしがみつき、助かります。リチャード・パーカーと名付けられたベンガルドラと共に。以降227日、パイ少年と虎の海上での生活が始まります。

結構丹念に少年期のパイ(スラージ・ジャルマ)の生活が描かれます。私が興味を持ったのは、ヒンドゥー教、イスラム教と信仰を持つパイが、キリスト教にも興味を持ち、生活に入り込んでいる事でした。日本ではクリスマスを祝い、お正月に初詣など普通ですが、他の国では必ず信仰は一つ、複数は有り得ません。しかしこれには意味がありました。そして良き両親に恵まれ、良き家庭であると印象づけ、パイは育ちの良い聡明な少年であると認識させます。

漂流開始以降、虎との共存なんて危なくて出来ないので、パイはボートを虎に乗っ取られた形となり、手作りの筏のようなものを作り、そこで過ごします。いつまで経っても恐怖と緊張しかありません。しかしパイの独白で、「リチャードがいてくれて良かった。緊張感のせいで、孤独を感じる暇がなかった」と語るのに、ハッとします。リチャードがいなければ、照りつける太陽を防ぎ、大の字になって眠れ、体力を与えてくれたでしょう。しかしその先の壮絶な孤独は、防ぎようがないはず。この物の捉え方に、私はとても感銘しました。

この心の在り方は、パイなりに三つの信仰から得たものだと思うのです。生きるためには、ベジタリアンである彼が魚を取り、虎にも分け与えます。これは戒律の一つを破っているはず。しかし宗教とは、あれこれ抑圧するものではなく、災難が降りかかって来た時、折れない心を与えるものであって欲しいと、私は思います。わざわざパイを三つの宗教を信仰する設定にしたのは、神は一つである、宗教の行き着くところは、同じはずだと言いたいのだと、取りました。

パイが一つ一つ難儀を乗り越え、会得する様子は、神の与えし試練を不承不承受けているのではなく、あれも試み、これも試み、積極的に戯れているように感じました。心折れることなく頑張るパイに、それでも神様は一つ一つ剥いでいく。最後に残った彼の知恵と文明の証である日記が風で飛ばされた時、いつまでこの聰明な少年は神に試されるのかと、パイと共に私も絶望します。そして絶望の果てに死を覚悟し、初めて心から寄り添うパイと虎。あんな大海にボート一つ、それでも数々の物がパイから奪われる様子を観ていた私は、人とは身ぐるみ剥がされて何もなくなり、生まれたままの姿に近くなった時、始めて真実が見えてくるのだなぁと、ここでも感動しまくります。

死を覚悟した彼に、神が用意したものは?私は生きる力だったと思います。それがあの島だったと思えてなりません。

そして話が終わり、ある仕掛けが語られ、唖然とする私。しかしパイは、作家に「どちらのお話が良い?」と聞くと、即座に作家は満面の笑顔で「虎!」と言い切ります。私も虎!この時咄嗟に私が浮かんだのは、大好きな大好きなジョージ・ロイ・ヒルの「リトル・ロマンス」でした。


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02月12日(火)
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