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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「アルバート氏の人生」
昨年のオスカーで、主演のグレン・クローズが主演女優賞候補に上がっていたので、ご記憶の方もいるはずの作品。オフブロードウェイで、彼女が精魂込めて演じていた役です。きっと開放感に満ちたハッピーエンドになると予想していたのですが、これがほろ苦い結末。人間としての尊厳・人権・心の開放などを、品格を持って観客に訴えかける秀作です。監督はロドリコ・ガルシア。
19世紀のアイルランド。モリソンズホテルに長年勤めるアルバート・ノックス(グレン・クローズ)は、顧客の信頼も厚い優秀なウェイターです。しかし、同僚と距離を置きながら静かに暮らす彼は、実は女性でした。親を早くに亡くした彼女は、当時のアイルランドで女性が一人で生きる事は厳しく、男性として生きる道を選んだのでした。ある日ホテルの塗装の修理のため、職人のヒューバート(ジャネット・マクティア)と知り合うアルバート。自由に生きる彼に感化されたアルバートは、今までと違う人生を歩もうと決心します。
とにかくクローズの演技が素晴らしいです。メイクの成果もあるでしょうが、立ち振る舞いから容姿まで、一切女性の要素が伺えません。本当に初老の男性です。そして自分を律っする品格と、息を潜めて暮らすような静かな孤独も、深々と伝わってくるのです。
アルバートは名家出身の母が私生児で生んだ子でした。その後里子に出され、養育費を出してくれた母は他界。養育親まで亡くなります。底辺に身を置くしかなく、そこで屈辱的な傷を負い、男性として生きようと決心します。何故男として生きようとしたか、納得出来ると共に、怒りも湧いてきます。
この作品は、軸になるアルバートの数奇な人生の他、女性蔑視、階級社会や貧困、疫病などの、当時のアイルランドの病巣を忍ばせて描いています。ボイラー係のジョー(アーロン・ジョンソン)とメイドのヘレン(ミア・ワシコウシカ)の、一見無軌道に見える恋愛、ヤレル子爵(ジョナサン・リス・マイヤーズ)の無自覚な傍若無人の振る舞い、モリソンズホテルの女主人ベイカー夫人(ポーリーン・コリンズ)の、因業で吝嗇、派手好みな様子を描くことで、底辺の人の悲哀を描いており、巧みな演出と内容の深さに感銘しました。
「品位がなくては生きていけない」とは、アルバートの言葉ですが、それを得るため、このホテルで働いている人々は、皆が必死の思いでこのホテルで職を得ているのがわかります。それが自分の生まれを自覚し、身の丈に合った願いだと思っているのでしょう。それだけでは嫌だったのがジョー。皆に等しくチャンスがあるアメリカに行きたいと言います。軽はずみで短気な若者ですが、ジョーの背景をちらつかせ、彼に理解を示した眼差しが暖いです。ヒューバートの人生も陰影に彩られたもので、アルバート以外の人々の描き方も滋味深く、心に強く残ります。
てっきりアルバートは、女性としての人生を見出すと想像していた私の予想は裏切られ、彼は終生男性のままでした。彼が求めていたのは、女性に戻る事ではなく、孤独を癒す事であった事に、私は深く考えさせられました。自分の性より前に、人は人であるという事です。色んな形の性の在り方が認められつつある現在、ストレートである私は、この事をしっかり受け止めたいと思いました。一度だけ女性の格好に戻ったアルバートが、満面の笑みで駆け出したのは、スカート姿が嬉しかったのではなく、嘘のない開放された自分を満喫したからでしょう。
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01月27日(日)
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