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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「夢売るふたり」



う〜ん・・・。感想書く前に、ちょっとお友達各位とネットお話してしまったのでね、少し上向く感想になってきましたが、秀作なれど、基本的には好きではない作品。監督は西川美和。今回全編ネタバレ、すごく長くなるかも?

東京の片隅で居酒屋を営む貫也(阿部サダヲ)里子(松たか子)夫妻。順調にいっていた店は、失火から火事となり廃業へ。一瞬の事でした。ふとした情事で、店の常連客玲子(鈴木砂羽)から大金を受け取った貫也は、大金の言い訳が通じず、里子に浮気がバレてしまいます。しかし里子は、その事から、夫婦で結婚詐欺をして、新しい店の準備金にすることを思いつきます。

相変わらず監督は人物描写が際立って上手い。餌食にされるのは、嫁き遅れのOL咲月(田中麗奈)、容姿に恵まれない重量挙げ選手ひとみ(江原由夏)、男運のないデリヘル嬢紀代(安藤玉恵)、シングルマザーの滝子(木村多江)など。そのどれもがくっきり内面まで浮かんできます。

しかしこの四人が描かれるのは良いのですが、その他にも騙した女はがたっくさん。ちょっとちょっと、これはないでしょう。いくら事実は小説より奇なりと言っても、夜は料亭や居酒屋で働き、同時進行でこれだけたぶらかすのは、時間的に無理ではないですか?結婚詐欺師は容姿端麗より、安心させる容貌の方が上手く行くと言ったってなぁ。ほとんどの女が、逃げられても騙された事も気づかずという高等技術。いくら現在の苦境を膨らませて取り入るったって、ど素人ですよ?まずここで疑問その1。四人だけで良かったと思います。

前半の里子は、甲斐甲斐しく夫の店を切り盛りし、廃業後はラーメン店で働き家計を支えています。対する夫はと言うと、失意から立ち直れず飲んだくれています。あげくは落ち度のない妻に難癖付けて管を巻く始末。それでも健気に夫を支える里子。愛しているのですね。だから夫が家の洗剤と違う香りの服を着て帰るだけで、浮気がわかるのでしょう。でも玲子からもらったお札燃やすか?あれは300万は下りません。

玲子が燃やすならわかるのです。仕事を持ちキャリアもあり、お金にも困っていそうにない。年齢も行き格の上がった自分に見合う男は、周りを見渡せば、仕事の出来る妻子持ちの上司しかいなかったのでしょうね。こんな手切れ金紛いの形で、終わりが来るとは思っていなかったでしょう。しかし彼女はそのお金を燃やさず、店の再興に役立てて欲しいと、貫也に渡します。「奥さん大事にしてね」の一言を添えて。厄払いだけではなく、上司との思い出でもあるお金を、彼女なりに有意義に使いたいという、真心もあったと思います。

このシーンの前にね、貫也が満面の笑みで里子の元に帰るシーンが良かった。その前はネチネチ妻に管巻いて、いっそ俺と別れた方がいいのだとか言いながら、お金が出来たらころっと豹変。夫とはこんな風に、いつも自分の甲斐性を気にしているのですね。それは妻がいればこそですよ。よその女と寝てきたのに、早く妻に会いたくて仕様がない様子で、妻への愛がわかるのです。浮気で妻への愛を表現出来るのかと、唸りました。


里子は火事の時自分たちを助けてくれた知人が、そのため入院。保険金はほとんどそちらに回っているようです。このお金は、短絡的に夫が女と寝ただけの代償ではないと、彼女はわかるはず。燃やし始めて、はたとここから結婚詐欺を思いつきますが、思いつかなかったら、あれ全部燃やしてたのかな?彼女が直情型の人間であると表しているのだと思いますが、やっぱり腑に落ちません。疑問その2。

里子が先導で詐欺を働くふたり。このお金は寂しさを託つ女性たちを喜ばしたお礼に、ひと時だけ借りただけ。借用書も書いてあるし、後で返済する気もあるので、ふたりには全く罪悪感がありません。本当はとんでもない事をしでかしているのはわかっているのですが、その真意には蓋をしているのですね。この辺の少しコミカルな演出は面白いです。


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09月15日(土)
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