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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ヒミズ」



好調の園子温監督作品。いつもはオリジナル脚本の監督作ですが、今回は古谷実のコミックが原作です。いつも通り露悪的だったり毒を含んだ表現があったりですが、厳しい環境に置かれる少年少女の明日への希望を、意外な程ストレートに描いており、とても胸を打たれました。昨年のヴェネチア映画祭で、主演の染谷将太と二階堂ふみが、最優秀新人賞を受賞しています。今回少々ネタバレ気味です。

中学三年生の住田(染谷将太)は、母(渡辺真紀子)の営む貸しボート屋を手伝う少年。悩みは時折帰ってきては金を無心し暴力を振るう父親(三石研)です。ボート屋の周りには、3.11の震災で家を無くした人々が、テントを立てて暮らしています。そんな住田をストーカーのように付きまとい、恋心を持つ同級生の茶沢(二階堂ふみ)。ある日、いつものように金を無心にきて暴言を吐く父親を、住田は突発的に殺してしまいます。

可愛い茶沢ですが、エキセントリックにテンション高く住田にまとわり付く様子が鬱陶しく、精神的に病んでいるのかしら?と思ってしまいます。しかしそれは、常に平常心を保って、過酷な生活環境から身を守る住田と真逆の方法で、彼女が自分を守っていたからでした。茶沢の両親もまた、娘を疎んじ虐待する親だったのです。

子供に早く死ね、お前なんかいらない、死ねば保険金が入ると、耳にタコが出来るくらい言い続ける親たち。私も同じ人の子の親ですが、みんなまとめて早く死んでくれと思います。いない方が子供のためよ。中学生以下の子供は、バカでなければ、保護者の存在がなくば、独りでは生きていけないと知っています。だから必死で逃げ出さない二人。ギリギリの所で自分は普通だと言う住田の言葉が、痛々しい。本当は普通だなんて思っていない、絶対に。

茶沢は住田を愛すると言うことで、自分を支えています。住田の役には立ちたいけれど、自分の愛に応えて欲しいとは思っていません。嫌われたっていいのです。これは無償の愛なの?まぎれもなくこの少女には、この作品に出てくる母親達にはない、母性が備わっていることがわかります。

いつも無表情で感情を露にしない住田ですが、父親にだけは敵意をむき出しにします。しかし殴られても血を吹いても殴り返しはしない。茶沢も援助交際なんてしない。つまらない学校だってちゃんと行く。それは何故か?殴られながら泥だらけになりながら、住田は「クズとクズから生まれたって、俺は立派な大人になるんだよ!」と叫ぶのです。立派な大人。普通の常識を持って暮らす大人。彼はこの気持ちを支えに生きています。これは茶沢もそうなのでしょう。この魂からの叫びの力強さと痛ましさに、私は涙が止まりません。

しかし何度も死ねと繰り返す父親に、辛抱出来なかった住田。殺意はなかったのです。簡単にあっけなく死ぬ父。本当に使えない親父だわ。あんたが死んだら、この子の立派な大人になりたいと言う心はどうなるの?父親殺しの汚名を着るんだよ?こんなに殺された人間に腹が立ったのは、始めてです。

父親殺しをして自分の人生は終わってしまったと思う住田。もう余世なので、世の中の役に立つため、悪い人間は殺そうと思いたちます。ここからの描写が、何気ないようで私には圧巻でした。世間にはびこる悪意を持った人間を、何度も殺そうとするのですが、殺せないのです。住田が躊躇するのではなく、その度に「邪魔」が入る。この子はクズなんかじゃない、立派な大人になる子なんだ。だからもう罪を犯させてはいけないんだと思いました。

住田を守ったのは茶沢の想いであり、夜野(渡辺哲)始め、必死に絶える住田の苦境を静かに見守っていたホームレス達の想いではないでしょうか?何故なら住田は、家を失い家庭を失った彼らの「希望」なのです。若いと言う事は、未来が一杯あるのです。それを夜野の口から明確に語らせています。あまりにストレートな描写ですが、胸を打ちます。愛する事、愛される事、人の役にたちたい。「普通の生活」に埋没して、見過ごしてしまうそんな当たり前の感情の大切さを、過酷な少年少女の様子を通して、必死で訴えていると感じました。


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01月16日(月)
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