ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927965hit]

■「ハウスメイド」


え〜と、設定や内容が古臭いと言う感想をたくさん目にする作品です。私は感じるところがあったので、考察があたっているかはともかく、一生懸命書かせてもらいます。1960年製作の「下女」のリメイク。「下女」は子役にあのアン・ソンギが出演しているなど、ちょっとカルトチックな人気もあるサスペンスで、私も一度観たいなと思っている作品です。ご主人様のお手付きになった女中の悲哀とは、確かに時代がかったお話ですが、所々に挿入される演出やセリフに、今持って男尊女卑の思想に苛まれる、韓国女性の辛さを感じました。そして容赦ない階級社会の陰湿さ。映画が古いのではなく、未だ韓国社会が古いのではないか?そんな印象を受けました。今回ネタバレです。監督はイム・サンス。

上流階級の家庭の家政婦となった中年女性ウニ(チョン・ドヨン)。先輩メイドのビョンシクの厳しい指導の下、双子を妊娠中の妻ヘラと六才の娘ナミの世話を懸命にこなします。あるとき主人のフンから求められるまま、ウニは関係を持ってしまいます。妊娠したウニを、本人より先に気付いたビョンシクは、そのことをヘラの母に告げます。

冒頭、若く美しい娘たちが闊歩する、ソウルの歓楽街が出てきます。溌溂と勢いのある娘たちと対照的に、飲食店で働くのは年のいった美貌にも恵まれない女性ばかり。綺麗な人は水商売に行くのかしら?ウニは短大中退で両親もいません。韓国の学歴重視は日本の比ではなく、また氏素性、出身地に対しても今も厳しいと聞きます。社会の上昇気流からはみ出した女性たちを、映していたと思います。

ウニが簡単にフンを受け入れるので、頭が軽いように思った方も多いでしょう。しかし主人の言いつけと言うより、富豪の御曹司で物腰柔らかく、エレガントにピアノを弾くフンに対して、ウニが憧れを抱いていた描写がありました。そしてフンに対して「あぁ、この匂い」と、裸の男の肌に愛おしそうに抱きつきます。ずっとセックスしたかったんですね。服従ではなく、街でナンパされた男と寝るのと変わりないと思いました。その前に半裸の同僚女性に抱きつき眠るウニのシーンがありますが、あれは満たされぬ体を、女性同士で慰め合っていたのかもしれません。

双子は通常は大事を取り帝王切開ですが、普通分娩で産みたいと言うヘラ。「4人でも5人でも子供が欲しい」と言います。「子沢山が大変なのは、一般家庭よ」とも。前者は子供をたくさん産むことで、家庭で安定した居場所を作りたいのだと思いました。後者は育ちの良い人の言葉ではありません。

まだ若々しく充分女として魅力のあるヘラの母は、娘婿に対して抱きつき親愛の情を示します。一見西洋的ですが、私は義母として、はしたなく思いました。私が結婚当初まだ40代だった私の母は、私の夫の体に触れた事はありません。私の嫌悪感は、きっと韓国内でも共有していたと思います。

「この豪華な暮らしと比べたら、浮気くらいなんだ」と娘をたしなめるヘラの母。フンを陰で御曹司と呼び、何でも好きな物は手に入れてきた男だ、お前が妻で居る限り、ナミもお腹の子も、御曹司と同じ人生が送れるとも。どうもヘラは所謂成金の娘で、出自としては身分は低いのかも。母は玉の輿に乗った娘と共に手に入れた、名実ともの「上流社会」を、必死で死守したかったのでしょう。対するヘラは、愛しい夫に裏切られた事より、相手が年のいったメイドであることにプライドが傷つき、憤懣やるかたないように見えました。夫の子供の母は二人要らないと思うのは、当然ですが。

生まれはどこか、親は何の仕事をしているのか、先祖はどんな階級だったか、未だに韓国社会では最優先なのです。苦労して育てた息子が検事となったビョンシクが、酔っ払って「私は大韓民国の検事の母よ!」と、部屋で独り、怒りをぶちまけるシーンがありますが、これは息子はどうあれ、ビョンシクが自分たちのメイドである事で、生涯彼女を蔑むであろうフン一家に対しての怒りです。息子がどんなに出世しようと関係なし。まるでインドのカースト並です。


[5]続きを読む

09月15日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る