ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927983hit]

■「どついたるねん」「王手」&阪本順治トークショー
昨日九条のシネヌーヴォでの、「浪花の映画大特集」のうち、この二つを観てきました。映画もさることながら、「王手」上映後には、阪本順治監督のトークショーがあり、そちらが一番のお目当てでした。映画の方は公開当時子育て真っ最中だったもので、どちらも未見。予想以上に楽しめて、昨日は本当に楽しい一日でした。

「どついたるねん」

ご存知監督のデビュー作にして、赤井英和がボクサー引退後の初主演映画です。監督によると、「赤井さんに脚本読んでもらうと、『これいらんの違います?これも、これも』と、それ全部自分の出番のないところばっかりで(笑)。全然違う脚本だったんですが、それをヒントに全編彼だけを主体に描きました」が、成功した一番の要因だと思います。全編赤井の魅力が炸裂していました。

ヤンチャで強烈な自我、瞬間湯沸かし器のように怒り、人の言うことは聞かない。目立つことが大好きでお山の大将でないと気が済まない。こんな男が、とんでもなくチャーミングに感じるのは、監督が相当赤井に入れこんでいたんでしょう。事実脇でとても良い味を出していた原田芳雄から、「お前、赤井しか観てなかっただろう」と言われたそう。赤井演じる英治の表面からは伺いしれない、孤独や寂寥感をすくい上げ、手を差し伸べずにはいられない愛おしさが、本当に上手く描けていました。

「俺は解説はでけへん。コーチもあかん、ジムの経営も無理やとわかってる。俺はボクシングするしか能がないねん!」と、命懸けの復帰を周囲に迫る場面では、一芸に「だけ」秀でた男しかわからぬ葛藤が、哀切にこちらにも届き、思わずほろっときました。

ボクシングシーンも本職の大和武士、大和田正晴が出演。大変迫力あるものになっています。赤井は頭に爆弾を抱えているようなものなのに、臆せずファイトシーンも力演。元ボクサーの本能的な凄みも感じました。赤井を引退に追い込んだ大和田の出演は、「本気で殴り合いをした相手と、試合後は抱き合って健闘を称える。そんなスポーツはボクシングしかない。だから自分はボクシングが好きだ」と語ったボクサーがいましたが、その言葉が大いに納得出来るものでした。元全日本チャンプでも、その末路の厳しさも描いていて、「ボクサー」というものの光と影、性を充分に感じさせてくれます。

美川憲一はいらんかったかな?あれはオカマさんではなく、普通にクラブのママじゃだめだったんでしょうか?ボクシングはナヨナヨしたイメージのオカマでも、男の闘う本能を目覚めさすと言いたかったんでしょうが、ならば女でも良かったと思います。セリフで「ボクシングは男だけのもんや」と出てきますが、現在女子ボクサーもおり、時代の変化も感じます。他には気の強い大阪の女子を演じた、相楽晴子がとても良かったです。今彼女のポジションの女優っていませんね。汗臭く泥くさいのに爽やかな、青春映画の秀作でした。

「王手」
「『どついたるねん』は、赤井の地じゃないか。演じていたんじゃない。そう言われて、俳優赤井英和の魅力を映そうと、ボクシングではなく、勝負する彼を描きたかった」のが、将棋が題材の「王手」製作の始まりだそうです。この作品でも期待に応えていたと思います。

通天閣下の将棋場で、真剣師(掛け将棋)を生業にしているのが赤井の役です。将棋は全くわからない私ですが、確かに将棋で格闘技をしている熱気が十分感じられます。将棋は文化的なイメージがあり、プロの将棋士も知的で静かな佇まいの人が多いですが、赤井の真剣師はやくざ紛いで教養がなく、しかし男のバイタリティを感じさせ、上手く真剣師という仕事を浮かび上がらせていました。確かに地の延長線上の役柄ですが、ボクシング抜きで好演していました。


[5]続きを読む

07月31日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る