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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「パーマネント野ばら」

27日に観て来て、あまりに今の私の心が求めていた作品だったので、西原理恵子の原作も帰りがけに買って読みました。原作の持つ愛すべき獰猛な逞しさを絶妙に脚色していて、「映画と原作は別物」を立派に体現出来ていて感心しました。原作 ・映画、それぞれ別の良さがありました。監督は吉田大八、脚本は奥寺佐渡子。
まさ子(夏木マリ)が経営する、高知の海辺にある美容室「パーマネント野ばら」。村で一つしかない美容室は、あけすけに日常を語る、村の老若の女性たちの社交場です。なおこ(菅野美穂)は、一人娘のももを連れて、母まさ子の元に出戻ってきました。なおこの幼馴染のみっちゃん(小池栄子)や、ともちゃん(池脇千鶴)も、それぞれ男運のなさに嘆きながらも、毎日を逞しく生きていました。なおこも高校教師カシマ(江口洋介)との恋を育んでいましたが・・・。
のっけからパンチパーマのおばちゃんたちの、下ネタ満載の毒のある会話に爆笑。髪型だけじゃなくて会話にもパンチがあって、こちらまで元気になれそう。なおこ、みっちゃん、ともちゃん、その他野ばらに集まるおばちゃんたちのエピソードも、全て独立していながら、上手く物語に溶け込んで、ユーモラスで女の逞しさを感じさせる作品感を造形しています。
浮気性の夫を持つフィリピンパブのママのみっちゃん、貧乏所帯で健気かつ執念深く夫の帰宅を待つともちゃんの、ガシガシ大地を踏みしめる生活感溢れる存在感に比べて、一児の母なのに頼りない脆さを感じさせるなおこ。カシマとの逢瀬にも、そこだけが作品から浮遊した印象を受けましたが、それには秘密がありました。
その秘密には、私は初めの方から気付いていました。私の咀嚼では、秘密の鍵を握っていたのは、母のまさ子。カシマとの逢瀬の後、夜半に帰宅すると夢を観て泣いている娘のもも。しっかり孫娘を抱きながら、「ももの母親はおまんぜよ」と、きつくなおこに言い放つまさこ。華やかさときっぷの良い女っぷりで、モテモテだったと語られる彼女。回想シーンから受けた印象は、どんなに男と恋しようが、母親である事は絶対に忘れなかったと思われました。なおこと、今は外で女を作っている再婚した夫(宇崎竜童)との穏やかな交流を観ると、まさ子が男を選ぶ時、なおこの事も考えていたように感じました。それでも尚、母の愛情を独占できない寂しさを託った幼い日の彼女。ずっとその心が、彼女の心の底に沈んでいたように私には思えました。
浮気した夫と店のホステスを、車で轢いてしまうほどの激情を見せたみっちゃんの選択には、今は認知症になってしまった父親(本田博太郎)の存在があったと思えるのです。子供の頃、家が食うに困るほどお金がなくなった時、電柱を切って闇で売ってお金にしたみっちゃんの父。「お父ちゃんはいつも命懸けで身体を張って、家族を守ってたんよ」と、亡くなった母から聞かされていたみっちゃん。どんなに愛していても、夫には成れない男もいるのだと、両親から学んでいたのでしょう。
なおこの秘密は、自分が一番輝いていた時に記憶が帰ってしまった、みっちゃんの父親と同じなのでは?あの時この人といっしょになっていたら、私はどうだったのか?今の壮絶な寂しさは、払拭されたのではないか?その思いが、彼女に秘密を抱えさせてしまったように思えました。
私が本当に感激したのは、なおこの秘密を知っていた村の人々みんなが、彼女を甘やかさず、しかし温かく見守って受け入れていたことです。登場人物全てが、屈託を抱えて生きている現実を、極太のユーモアで笑い飛ばしながら、女として生きる事の息苦しさと生き甲斐、この相反する二つを、見事に描き出せていました。女同士っていいなぁ、とつくづく再確認しました。
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05月30日(日)
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