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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「3時10分、決断のとき」


素晴らしい、素晴らしすぎる!今年何度書いたかわからない、このフレーズですが、今年の私の暫定一位作品とあっては、書かずにはおられません。この作品、2008年度のオスカーでは、音楽賞と音響賞だけにノミネートらしいですが、いったいオスカー会員はどこに目をつけているのか?小一時間どころか、一週間は問いただしたい気分です。監督・作品・主演&助演男優賞、全てノミニーなしなんて、本当にふざけています。ケレン味一切無し、西部劇として堂々の正攻法で、骨太に男の世界を描いた傑作です。監督はジェームズ・マンゴールド。1957年度作品「決断の3時10分」のリメイクです。

南北戦争で片足を失った牧場主のダン(クリスチャン・ベール)。妻(グレッチェン・モル)と二人の息子(ローガン・ローマンとベン・ペトリー)の四人暮らしです。しかし干ばつが続き牧場の運営は苦しく、借金がかさみ生活は苦しいです。そんな時、悪名名だたる強盗団のベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)が逮捕される時に、偶然居合わせたダンは、三日後ベンを裁判所のあるユマ行きの列車まで護送するのに、名乗りを挙げます。表向きは報酬で借金を返済することでしたが、ダンは自分の人生を賭けた、ある決意を胸に秘めていました。

ラッソーが本当に素晴らしい。彼が名優であるというのは認めていますが、正直苦手だった私が、今回文句なく惚れました。冷酷非情な悪党の面を露わにしても、それを凌駕する魅力がいっぱいです。類まれなガンさばき、聖書の一節をそらんじたり、人物をクロッキーするエレガントで知的な風情、逮捕されても全く動じず泰然自若な様子は、圧倒的な男としての自信に充ち溢れています。それらを立証する数々のエピソードを挿入しており、それは残虐であったり華やかであったりするのですが、一貫してウェイドの器の大きさとカリスマ性を描写しています。ラッソーはこれらを見事に体現したのですから、惚れるなと言う方が無理。私の気持ちは、酒場の女や妻、息子たちで代弁されていました。

対するダンですが、確かに甲斐性がなく、妻子の信頼は薄れ、難しい年頃(14歳)の長男には秘かに反抗され、立つ瀬がありません。しかし私には過剰にダンが自分を卑下しているように感じます。男なら誰でも自分の愛する妻子に、裕福な暮らしがさせたいでしょう。それを出来ない腑甲斐無い自分を責める男としてのプライドは、痛いほどわかります。でも確かに所帯やつれはしていましたが、女の私から観て妻のアリスは、不幸な妻には見えませんでした。それは子供たちとて、いっしょ。妻子は心の底では、夫・父親を、もう一度信じ信頼したいからだと思いました。それが何故なのかは、最後のダンの告白で理解することが出来ました。演じるベールは、私は大好きな人なのですが、ここ最近の「ダークナイト」「ターミネーター4」と、たて続きに超大作の主演を張るも、あまりの存在感の薄さ華のなさに、可愛さ余って憎さ100倍、もうファンなんか辞めてやる!の心境でしたが、こういう地味で切々とした男心を演じさすと、本当に上手。大物ぶりを発揮するラッソーに対して、受けの演技が要求されたと思いますが、一歩も引かない好演だったと思います。

不始末を仕出かした手下を始末した時、「油断したからだ」と言うベン。ベンが逮捕されたのも油断したからでしょうか?直接の原因は、会話を引きのばしたダンの機転でしたが、私はその前から始まっていたと思います。

ベンが酒場女のエマをじっと見つめる様子は、私には性欲とは感じられませんでした。あれは女の人肌を恋しがっている目、ではなかったでしょうか?緑の目の女が好きだと語り、ここをいっしょに出ようと、エマを誘うベン。ならず者に決まった女は不似合いでしょう。彼女が緑の目をしていたから、ベンは心が動いたのでしょうか?ベンの眼差しは、アリスにも向けられます。アリスにも緑の目の女が好きだと語るベン。それはもしかしたら、彼の母のことだったんじゃないかと思うのです。


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09月03日(木)
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