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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「南極料理人」

わ〜、面白かった!クスクスするぐらいかと思っていたら、終始大笑いしていました。爆笑じゃなくて、大笑いね。微妙に違うんだなぁ。ペーソスもほどほどに取り込んで、「生きる事とは食べる事なり」を、とっても楽しく見せてもらいました。
1997年、南極ドームのふじ基地に、観測隊員としてして赴任してきた西村(堺雅人)。彼の仕事は料理人として、他七人の観測隊員の食事の用意をすること。期間は一年半、毎日手間暇かけた料理で、隊員たちの胃袋と心を満たす西村。しかし日本から14000キロ離れた、平均気温−57度の、閉塞した空間で生活するうち、さまざまなフラストレーションや問題が、彼らを襲います。
「襲います」と、書いてありますが、その辺はあんまり深追いしていません。万人にわかるようなプロットを用意し、行間を読ませるより、役者さんたちのあ・うんの呼吸と演技力で、上手く泣き笑いに転換させています。なので笑いに深みが残るので、物足りなさはありません。それにこの作品は実話が元で、まだまだ12年前のお話です。登場人物の皆さんは一般人で、誰が観ても楽しめるような作風の方が、上品ってもんです。
ペンギンやアザラシさえもいない、「南極僻地」とでも呼びたいようなふじ基地。娯楽なんて夢のまた夢、外に出ても雪だけがしこたまある場所で、外で野球に興じたり、室内で麻雀や卓球したり、夜には酒好きのドクター(豊原功補)の診察室がバーになったりと、それなりに創意工夫する彼ら。しかし一番彼らの心を和ませ癒したのは、西村が作る毎日の食事だったのです。
画面に出てくる料理の数々が、もう本当においしそう。日常食す料理から、ハレの日の特別食まで、画面に出てくる料理は、観客の胃袋も刺激します。てんぷら・お刺身・ステーキ・中華など、全体に高カロリーの食事なのも、極寒で重労働の彼らを表現しているのでしょう。特に私が感心したのは、お握り。堺雅人が実際に作っているのですが、本当に上手です。具は定番のシャケや梅干しの他、豪華絢爛にいくらまで。これは絶対いくらを取ったら当たりだなぁと思って観ていると、隊長(きたろう)のリアクションは、私の予想そのまんま。大笑いしました。
毎日毎日、ご飯を作るのは大変です。メニューを考えるのは更に大変。西村は毎日決まり切った冷凍の食材から、これをこなすので、苦労は如何ばかりかと、主婦なら絶対共感するはず。誕生日の本さん(生瀬勝久)に、「今日何食べたいですか?」と問う西村。あぁぁぁ、わかるわ!実はうちの夫も昨日誕生日だったのよ。同じことを聞いて、「何でもいい」と答えまでいっしょ。何たるリアリティ。(ついでに書くと、「ケーキは?」と聞くと、「チーズケーキ」とのお返事。なんばに出て観たので、「リクローおじさんの?」と聞くと、「いや、お母さん(私のこと)の作ったチーズケーキ」とのお返事。お陰で私は、観る回を一つずらしたのだ)。この辺になってくると、堺雅人が他人に思えない私。しかしこれ以降、食を通じての、西村の「男の母性」が、お話を照らすのです。
生の野菜を隊員に食べさせたくて、栽培を試みるも不発。ラーメンが死ぬほど食べたい隊長のため、かんすいの作り方を聞くや、身を翻して厨房へ走る西村。彼は毎食毎食、隊員たちにおいしいものを食べさせたいと、心を込めて食事を作っていました。画面から一番発散していたのは、彼のその心です。料理人の世界は男の世界だと言われますが、毎日の生活の中での料理は、男が作っても、それは食べる人を元気づけたい「母の心」なのでしょう。
「母」の作った手料理を、毎食毎食「家族8人」揃って食べる。これが彼らがそれなりに円満に過ごせた秘訣じゃないでしょうか?だってラストの方の西村なんか、まるで主婦そのものだったもん。その他、最初は敬語を使い合っていた隊員たちが、その内タメグチになり、髪も髭も伸び放題でも気にしなくなり、一層むさくるしくなる様子などで、彼らが一つの家族のようになっていく様子を映していました。南極と言う孤立した場所で、西村の作る料理は、彼らを孤独にはしなかったのですね。
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08月27日(木)
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