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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「路上のソリスト」


ロバート・ダウニー・jrに死角なし。ここ二年、彼の出演作は全て観ていますが、どれもこれも外れなし。今回「ゾディアック」に続く新聞記者役ですが、立ち位置も内容も全く違う役ですが、新聞記者の、胡散臭さではなく性を感じさせる役がらを、誠実に人間味たっぷりに好演。オスカー俳優ジェイミー・フォックスも難しい役を繊細に演じてとても良く、地味な作りですが、深々と人生について考えさせられる秀作でした。実話を元にしており、監督はジョー・ライト。

LAタイムズの人気コラムニストのスティーブ・ロペス(ロバート・ダウニー・jr)。最近記事に息詰まっていた彼は、ベートヴェンの銅像の前で二弦しかないヴァイオリンで、美しい音色を響かす、ホームレスのナサニエル(ジェイミー・フォックス)と出会います。ナサニエルが名門ジュリアード音楽院を中退したと知ったロペスは、何故彼が今の暮らしをしているか、俄然興味が湧きます。彼のことを書いたコラムは大反響。この事から、ロペスはナサニエルの人生に深く関わることになります。

最初記事のネタになるとナサニエルに近づくロペスが、彼の奏でる音色に聴き惚れ、才能に魅了される過程が、とても自然に描かれています。ナサニエルの演奏するクラシックの数々は、スクリーンを通じても、聞く者の心を落ち着かせ、安らぎを与えるのです。

音楽と人生に的を絞るのかと思いきや、映画は多角的に人生について問いかけます。ナサニエルの心を掴むため、自らもホームレスの保護地を頻繁に訪れるロペス。それはナサニエルを助けたい善意からですが、中々彼らを理解出来ないロペスの様子が描かれます。彼の戸惑いや、その場から完全に浮いた視線は、多分観客と同じでしょう。不潔で危険な様子を丹念に描いており、ロペスの心情は痛いほどわかります。彼の吐く言葉も正論。しかしそれは違うのだと、のちの展開で回答が出てきます。

ナサニエルはある精神疾患を患っており、それがためジュリアードで学ぶことが困難になり、退学。その傾向は神童めいた青春期から始まっていたのですが、自分の身に起こる恐ろしさを払しょくするため、一心不乱にチェロを弾くナサニエルの姿は、本当に痛ましい。その後も頻繁に恐怖にさらされるナサニエル。荒ぶる純粋な魂を鎮められない彼の辛さは、フォックスの素晴らしい演技で、思わずナサニエルと同化してしまい、涙が出ます。音楽の天分をという「恩寵」を受けた彼が、引き換えに失ったものは、あまりに大きいものでした。ナサニエルは頭髪も薄くなった中年のホームレスなのですが、まるで思春期の少年のように純粋に見えるのです。フォックスの渾身の演技は本当に心が洗われるようで、存分に彼の力量を見せつけます。

何故ナサニエルが路上を好むのか、閉塞的な場所を嫌うのか。広大な空間でないと、彼の心を受け止めてくれないのでしょう。それは両手を大きく開いて、彼を抱いてくれる人がいないことを表しているようです。自分に再び音楽を授けてくれたロペスを、ナサニエルは「自分の神」だと崇めます。彼を助けたい一心で上に立って引っ張ろうとするロペス。しかしそれが亀裂を生みます。お互いがお互いを認めているのに、噛み合わない二人の心がもどかしい。

同僚でありロペスの元妻であるメアリー(キャリン・キーナー)は、二人の様子を時には微笑み、時には嫉妬し見守ります。破綻した二人の結婚生活ですが、ロペスは彼なりに最善を尽くしたはず。しかし寸でのところで、逃げたのでしょう。ナサニエルとロペスの関係に、メアリーは夫婦であった頃の自分たちを重ねたのでしょう。夫であった男に、今回は逃げずに立ち向かって欲しいとの気持ちが、キーナーの好演によって、ひしひし私に伝わってきます。

ナサニエルには、適切な医師の治療と薬物投与が必要だと主張するロペス。保護地でボランティアのリーダーをしている男性は、「それは彼が望んだことか?」と、ロペスの問いかけます。望む望まないは関係ないと思っているロペス。ナサニエルのためなのだから。友情の名を借りた、その上から見下ろした視線を、ナサニエルに恫喝され、ロペスは自分の欺瞞に気付きます。


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06月05日(金)
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