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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「闇の子供たち」


阪本順治監督、渾身の作品。前評判の高さからか、夏休みのレディースデーとも相まって、劇場は超満員。正直演出や筋運びには疑問がたくさんありましたが、この現実を世間に問いたいという、真摯な監督の思いは熱く伝わり、私も力の入った鑑賞でした。秀作・傑作ではありませんが、掛け値なしの「力作」です。

タイ。ここでは貧困層から10前後の子を買い取り、売春宿で働かせるという実態があります。日本人の音羽恵子(宮崎あおい)は、そんな悲惨な状況に置かれるタイの子供たちを救おうと、現地のNPO法人に参加。しかし一部の同僚の「何をしにきた」という、冷たい目にも晒されています。一方日本新聞社のタイ・バンコク特派員南部(江口洋介)は、闇ルートでタイの子供の臓器が、脳死ではなく生きたまま売買されていて、近々日本の子供に提供されるという情報を掴みます。

客に凌辱される子供たちの様子が、とにかく衝撃的です。檻のような部屋に詰め込まれた子供たちは、客から凌辱の限りを尽くされ、エイズになり使い物にならなくなれば、ゴミ袋に入れて捨てられ、健康な子も臓器売買のため、命を落とします。客は欧米人と日本人ばかり。私は小児性愛のことはほとんど知らず、スクリーンに描かれる様子に怒りと居た堪れなさで、疲労困憊になりました。そんな中でも、子供たちの黒々とした眼は、射るようなまなざしを観客に向け、絶望的な怒りを表現しています。監督は演じる子供たちが傷つかないよう、細心の注意を払ったとか。性的な場面も別々に撮り編集したと読み、ホッとしました。

この場面の衝撃性から、R12ではなくR15が良いという意見もありますが、私は是非中学生にも観て欲しいです。「地図では20cm」の距離の国で、自分より年下の子が貧困のため、性の道具にならなければいけない状況があると知るのは、立派な教育です。昨今援助交際は、小学生にまで広がっていると聞きます。その本質はこういう恐ろしい事なのだと、子供たち自身にも理解出来ることでしょう。

恵子は実のところ、日本で煮詰まってタイにやってきたようです。南部が現地で雇うカメラマンの与田(妻夫木聡)も、日本で芽が出ず、タイならばと流れて来ています。そこには環境の遅れているタイならば、日本で居場所のなかった自分にも、何か出来るのではないか?という思いがあったのではないでしょうか?無自覚な見下しです。恵子につらく当たるNPOの同僚の「日本でもやれることはあるでしょう。何故タイなの?」は、それを見抜いているからでしょう。

実際恵子の青臭い正義感は、数々の場で短絡的な言動を起こし、足を引っ張るばかりです。正しい事を正しいと言うだけでは、世の中は通じません。しかし劇中南部に「バカ女」呼ばわりされる彼女は、観客ではないでしょうか?監督は意識的に恵子をイラつかせる女性に描いていると感じました。後半からの彼女は愚直ではあるけれど、その成長した姿は目を見張るものがありました。NPO法人の女性リーダー、ナパポーンが恵子に向けて「あなたしか出来ないことがある」と語るのは、日本に住む観客にも向けられた言葉だと思います。

手術のお金は日本円にして5000万円。日本の富裕層なら、なんとかなる値段です。「臓器はどういう手段で手に入るのか、わかっているのか?」と詰る恵子に、子供の母(鈴木砂羽)がヒステリックに「話すことも出来ず寝たきりに子を持つ親の気持ちがわかるか?」と言い返します。これは理解出来る人はたくさんいるでしょう。私も気持はわかる。

しかし本来は、切羽詰まった親の心理につけ込む人々こそを、糾弾せねばならないはずが、力点がウェットな親の心理に置かれているので、その辺の演出が弱いのが残念です。


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08月07日(木)
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