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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「告発のとき」


重厚でとても立派な作品です。イラク戦争をアメリカ側の出征兵とその家族で描いています。このテーマは、妻であり母である人が戦死する「さよなら。いつかわかること」と同じですが、たくさん泣いていいんだよと、言ってもらえるこの作品とは異なり、こちらは涙を流すのを禁じられているかのような厳しさです。軍警察に定年まで勤め上げた人を主軸に持ってくることで、アメリカの多方面の苦悩も、深く掘り下げていました。監督は「クラッシュ」の、ポール・ハギス。

元軍警察に勤めていたハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)の元に、イラク戦争から帰還したばかりの息子マイク(ジョナサン・タッカー)が、無断離隊したとの電話が入ります。息子に限って、そんなはずはないと、この不名誉を回復すべく、軍基地まで出向くハンク。しかしマイクは軍近くの場所で、バラバラに切断され、黒焦げに焼かれて殺されていました。何故自慢の息子がこのようなことになったのか、地元警察の刑事で、唯一自分に協力してくれるシングルマザーの女性刑事エミリー・サンダース(シャーリーズ・セロン)と共に、事件の究明に乗り出します。

息子の探索のため、一人でモーテルに宿泊する彼は、きちんとベッドメイキングをして、アイロンがなくても、椅子の背でズボンの折り目をきちんとつけるような人です。反射的に私は、こんな夫はいやだなと思いました。ハンクが訪ねる基地の内部や部屋は、とてもきちんと整理整頓され、規律正しいです。ハンクが老いた今でもその習性が抜けないのは、軍のその几帳面さが性に合っていたのかなと感じました。ハンクは紹介された兵士たちが皆好青年であることに、息子もそうであろうと信じたでしょう。しかし息子の足取りを追うごとに露呈する、自分の知らない息子の顔。ストリップバーに通い、麻薬を吸っていたであろう息子に、困惑する真面目で愛国心に満ちた父。

自分もいっしょに息子を捜したかったのに、夫独りで行かれてしまった妻ジョアン(スーザン・サランドン)。そんな独善的なことは、きっと日常茶飯であったろうと思います。息子の死を知り飛んで来た母は、黒焦げでバラバラ、肉は野犬に食いちぎられて見る影の無くなった息子に、「部屋は低温なのでしょう?あの子が寒いわ・・・」と、独り言にように語ったとき、堪らず涙が出ました。「立派な父」は、泣き言は言わせず聞いてもらえなかったでしょう。死んだ息子に寒かろう、温めてやりたいと願う母があってこそ、ディアフィールド家は円満だったのではないでしょうか?観終わったあと、このシーンは厳父であるハンクとの対照になっていたと感じ、私の涙は正解だったのかもと感じました。

昔の同僚など、とっくに引退しているのに、未だ自分も現役の軍警察のように錯覚して行動するハンク。有能だったであろう彼は、杜撰な捜査にイライラし通しで、憤懣やるかたなかったでしょう。しかしこれには訳があったと、私は感じました。地元警察や軍警察は無能なのではなく、元々事の成り行きなどわかっていたのでしょう。臭いものには蓋がしたかっただけなのです。

エミリーは頑張って交通課勤務から刑事に昇進したのに、同僚の男性刑事からは、女を武器に手にした出世だろうとからかわれ、セクハラに合って孤立。きちんとした捜査のノウハウも教えてくれず、仲間として扱わない同僚男性刑事と違い、居丈高ではあっても、自分を刑事として扱い、ひとつひとつを紐解いていくハンクに、畏敬の念を持ったと感じました。そして自分も息子を持つ母であるというのが、ハンクに協力を申し出た所以でしょう。

次々と露呈していく、帰還兵たちの破廉恥の数々。携帯で写した、イラクでの蛮行はとても生々しいものでした。過酷な戦場で心のバランスを崩した兵士たち。犯人は優秀な軍人であったハンクの、遥かに想像を超えた人物でした。ハンクの知る軍隊は、昔のことなのです。このときやっと、自分が一人の老人でしかないと、彼は初めて実感したのではないでしょうか?


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07月03日(木)
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