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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ジェシー・ジェームズの暗殺」

2007年度ヴェネチア映画祭、主演男優賞(ブラッド・ピット)受賞作。
映画友達の皆さんが大のつく絶賛なのに、何故か多くのシネコンで二週間で打ち切り続出で、私もまだ続映する「やわらかい手」を後廻しにしての鑑賞でした。いや本当に観て良かった!三時間近くの長尺ながら、ずっと緊張感が持続する中、様々な感情が湧き起こる秀作でした。
南北戦争後のアメリカ。ジェシー・ジェームズ(ブラット・ピット)は、兄フランク(サム・シェパード)ど共に、強盗や殺人を繰り返し、無法の限りを尽くしていました。今回も列車強盗のために、同じようなメンバーを集めました。その中にジェシーを幼い頃から偶像として崇拝するロバート(ケイシー・アフレック)がいました。ロバートは兄チャーリー(サム・ロックウェル)がメンバーにいたため、ジェシーに直接懇願してメンバーに入れてもらいます。
ジェシー・ジェームズと言う人は、ちらっと名前だけ知っているだけで,
義賊のような人だと思っていました。しかしこの作品では、カリスマ性はあっても凶悪な犯罪者であって、義賊というのは時代が作り上げたお話、という描き方です。
そのことについて浮かれもせず、悩みもせず、客観的に常に冷静なジェシー。しかし名声が高まるにつれ、彼は猜疑心の塊になり、自分を慕うロバートの心を弄び、いつも逮捕と死を恐れる心は仲間から浮き上がらせ、ジェシーを静かな怪物のような存在にして行きます。
何が緊張するかって、ジェシーの一挙一動に皆が固唾を飲んでいるのがわかるのです。そしてまた、ジェシーは次にどんなリアクションを起こすのかが、全く読めない人なのです。怒るかと思えば大笑いし、優しくするかと思えば突き放し。彼の意に沿うよう懸命に次の行動を模索し、表面を取り繕う仲間たち。ジェシーのカリスマ性を表現しながらも、偶像として祭り上げられる者の悲痛な孤独も、見事に浮かび上がらせていました。
そんな中で純朴で善良ですが、少々愚鈍なロバートは、人一倍ジェシーに憧れていたはずなのに、次第にジェシーに反発心を抱きます。これが男女間の愛や、または同性愛だというなら、自分の理想と違う相手を受け入れるのは、割に容易い事だったかも知れません。しかしロバートにとってジェシーは偶像なのです。目の前の男が、自分の理想の清々しく豪気溢れた人間ではないというのは、許されないことのはず。しかしその猜疑心の塊の男は、それでもとても魅力があって、気まぐれに自分を可愛がり、そして傷つける。映画もテレビもラジオさえない時代。流行の書物が虚実ない交ぜに描くジェシーを信じきっていたロバートが、現実の彼と世間が作り上げた彼とのギャップに戸惑い、やがて愛憎混濁する気持ちになるのを、とても丁寧にじっくり描いています。
兄フランクはそんな弟から距離を置く為、この仕事から手を引きます。仲間達が惰眠を貪り、商売女にうつつを抜かしている時も、この兄弟は常に拳銃を握って眠り、少しの物音でも引き金に指を賭けます。全然他のアウトローたちとは違うのです。それがどうして兄は安息を求め、弟は神経をすり減らしながら犯罪者として生きたのか?その辺が一度観ただけでは、まだわからないのです。ジェシーもまた、偶像である自分に縛られていたんでしょうか?
「暗殺」とタイトルにあるのに、その場面に近づくと、緊張感はマックスに。この辺の盛り上げ方は、決して派手さはないのに秀逸でした。私が思うに、ジェシーはロバートの手で、そして愛する家族のいる家で、殺されたかったのではないかと感じました。病んでいく自分の神経に、一番振り回されたのは、ジェシー自身ではなかったか?ジェシーは自分にまとわりつくロバートに、「俺のような人間になりたいのか?それとも俺になりたいのか?」という質問をぶつけています。ジェシー・ジェームズであり続けることに耐えられなくなった彼は、ロバートに「ジェシー・ジェームズを殺した男」としての人生を贈ることで、答えを導くようにしたのではないかと感じました。
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01月26日(土)
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