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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ボルベール<帰郷>」

日曜日になんばTOHOで観てきました。ぼちぼち短縮授業&夏休みで映画の予定立ちづらく、少々高めでしたがオークションでチケット買っておいて良かった!アルモドバル作品の中では一番の傑作と前評判高く、すごーく期待しまくったので、ちょい期待値には届きませんでしたが、充分秀作だと思います。期待値に届かなかったのは、多分私の個人的な理由でしょう。女・女・女、それもラテンの濃〜い女性ばっかり出てくるのですが、暑苦しさではなく母性の暖かさがとっても心地よい作品です。
ライムンダ(ぺネロぺ・クルス)は失業中の夫、15歳の娘パウラ(ヨハンナ・コボ)を養うため、毎日朝から晩まで働く日々です。姉ソーレ(ロラ・ドゥエニャス)と共に、火事で亡くなった両親の墓を掃除して、その足で伯母のパウラの元へ顔を見せます。歩くこともままならず、老人特有の症状を見せる伯母に、ライムンダの悩みは尽きません。しかし娘パウラが性的暴行を加えようとした父親を、誤まって殺してしまった時から、ライムンダの生活は一変してしまいます。間が悪く伯母は亡くなり、隠ぺい工作に奔走するライムンダは、葬儀の全てをソーレに任せます。しかしそこでソーレは、幽霊になった彼女たちの母イレーネ(カルメン・マウラ)が、生前のパウラの世話をしていたというのです。
冒頭集団で墓掃除をする女性たちの賑やかなスペイン語が飛び交う様子で、私が何故ラテン映画が、とりわけスペインが好きなのかがわかりました。けたたましくたくましく、そして明るく。近隣の人との濃密な付き合い、目上の老齢の親せきを敬い心配する様子は、私が育った頃の在日社会とそっくりなのです。今じゃ在日は良くも悪くもマイルドになっていますから、濃さの軍配はスペインかな?
ぺネロぺがとにかく素晴らしい!ハリウッドに渡ってからは、何だかお飾り人形のような扱われ方で精彩がなかったですが、気が強くてたくましく、生活力に溢れるライムンダを演じて、見違えるような輝きです。彼女からボンボン投げ出される剛速球の母性は、思春期の娘に口答えひとつさせません。その一見がさつな様は、お母さんでもママでも、ママンでもない。母ちゃん、いやオカンそのもの。それなのに「母親のお尻はもっと大きくなくてはいけない」との監督の指令で、パットを入れたちょっと大きなお尻と豊かなバストからは、母性だけではなく女盛りのエロスも香っていて、とにかく絶品の女っぷりです。
そして母と言えば料理!成り行きで毎日撮影クルーの食事を30人分用意することになったライムンダが、夫の死体の処理もそっちのけ、お金もないのにあの手この手で毎日食事を振舞うにしたがって、世帯やつれが激しかった彼女が、段々と生き生きしてく様子は壮観です。
ライムンダと母イレーネには根深い確執がありました。イレーネはライムンダに許しを乞いたいと言います。それを聞く姉のソーレは、びっくりしながらも生きていた母を受け入れます。夜中にそっと母の寝床に添い寝するソーレからは、嬉しさが津々伝わってきます。同じ母から生まれた姉妹であれ兄弟であれ、一人一人には微妙に違う母親像なのだろうと感じます。
一目我が娘と孫を見たいイレーネが、ライムンダのレストランに近づくと、ライムンダは母の教えた歌を歌っています。そのタイトルが「ボルベール」。秘かな母への思いがほとばしるこの歌をぺネロぺが熱唱(多分吹き替えだけど)し始めると、私の目からは熱い涙が。それほど盛り上げようとする場面ではなかったと思いますが、本当に魔法にかかったように泣いてしまうのです。隠れて聞いていたイレーネももちろん涙。このときのイレーネの微笑みは本当に豊かで、娘を慈しむ心を感じます。
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07月10日(火)
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