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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「華麗なる恋の舞台で」
主演のアネット・ベニングが、2005年度にオスカーの主演女優賞候補になった作品。ベニングはその前にも作品も演技も素晴らしかった「アメリカン・ビューティー」で候補となるも、「ボーイズ・ドント・クライ」のヒラリー・スワンクに賞を奪われ、2005年度も「ミリオンダラー・ベイビー」のスワンクにまた負けています。「ミリオンダラー〜」のスワンクは、「ボーイズ・ドント・クライ」なんか目じゃないくらい良かったので、2005年度は順当なのかとずっと思っていましたが、演技のみに絞って言えば、やっぱりベニングが上だと思うよ、私は。こっ恥ずかしいタイトルのこの作品ですが、ベニングの惚れ惚れするような、堂々の大女優ぶりを堪能した後では、小粋なタイトルに感じるから不思議。監督はハンガリーの名匠イシュトヴァン・サボーです。
1938年のロンドン。ジュリア・ランバード(アネット・ベニング)は大女優としてロンドンの演劇界に君臨していました。夫の興行主でもあり舞台監督でもあるマイケル(ジェレミーアイアンズ)との間には、息子のロジャーにも恵まれ円満で満ち足りています。しかし毎日の舞台中心の生活は、心に充電する間もなく、最近のジュリアはイラついています。そんな時出会ったのが、アメリカ生まれの親子ほど違う若さのトム(ショーン・エバンス)。ジュリアの熱烈なファンであるトムと、たちまち恋に落ちてしまうジュリアですが、ほどなくトムは若い新進女優エイヴィスに乗り換えてしまいます。
大女優でござい、のジュリアの日常がユーモラスに、そしてエレガントに描かれています。タイトル通りの華麗な舞台、パーティ、日常でも手を抜かない素敵なファッションの表の顔に対し、我がまま気まま、気にいらないと当り散らすような、幼い子のような部分との落差が、40代後半という年齢に似つかわしくない愛らしさで描かれていて、とってもチャーミング!
いわゆる女優の業というものではなく、私生活も含めてひたすら女優であることのプライドが楽しく描かれています。
ちょこちょこジュリアの育ての親だった演出家ジミー(マイケル・ガンホン)の亡霊が出てくるのですが、事あるごとに彼女に演技指導する姿が、これまたユーモラス。「日常は虚像、舞台こそ全ての真実」と何回も彼女に言って聞かせます。さすれば彼女にとってこのアバンチュールは、絶好の若返りだったはず。今回の相手には少女を演じる大女優は、つまみ食いは初めてではなかったはずですが、こんなに若い男性に言い寄られたのは久しぶりでしょう。鏡を前に「まだまだいけるじゃない?」と、浮かれる様子は、女の定年がもう見えている我が身にも、とってもわかるのだなぁ。
この夫は女優の妻が大好きでとても大切なのですね。浮気はちゃんとわかっていたはず。しかしこれも芸の肥やしならばと、見てみぬふりだったのではないかと。女優の妻が大事というと、冷たい響きに聞こえますが、彼女は人生全てが女優の人なんですから、こんなありがたい旦那さんはいないはず。こんなわかりにくい愛情で結ばれた夫婦から生まれた息子は、災難です。しかし息子とは有難いもんですな。それでも母に向ける愛情は普通の母子のそれ。その辺の描き方のさりげなさもすごく上品です。
ジュリアは口ばしの黄色い分際で、自分を侮辱するようなまねをしたトムやエイヴィスにお仕置きするのですが、これが舞台女優ならではのお仕置きで、今作品最大の見せ場です。大女優はこれでなくっちゃ。でもそのきっかけは、息子ロジャーとの会話からなのですから、息子からの敬愛を取り戻す意味もあったかと思います。噂を耳にしただけならば、彼女も知らん顔したかな?
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03月17日(土)
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