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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ゆれる」
大評判のこの作品、観て来ました。どこの上映館でも満員御礼、定員オーバーで追い返されることも多々ということで、レディースデーは避けたかったのですが、あいにく仕事が長引き、時間が間に合う作品がこれだけ。上映40分前にはリーブルに着きましたが、定員115人の劇場で、私が手渡されて整理番号は、何と162番!後から続々立ち見でも観たいというと人が押しかけていましたので、最終的には倍くらい入ったでしょうか?私は通路に正座したり三角座りして、2時間少々頑張りました。しかし足の痛さなど全く気にならない、張りつめた、しかし生暖かくも物悲しい空気がずっと持続する、素晴らしい作品でした。私は未見ですが、デビュー作「蛇イチゴ」の評価も高かった、女性監督西川美和の作品。

東京で写真家として成功している猛(オダギリジョー)は、母親の一周忌のため、久しぶりに帰省しました。故郷では温厚な兄稔(香川照之)が、偏屈な父(伊武雅刀)の後を継ぎ、家業のガソリンスタンドを父とともに経営していました。父親と確執のある猛の今回の帰省も、兄に勧められてのことでした。ガソリンスタンドで働く智恵子(真木よう子)は二人の幼馴染で、かつて猛の恋人でした。三人で近くの渓谷を訪れた時、吊り橋を稔と智恵子が二人で渡っていた時、智恵子が吊り橋から転落し、死亡します。智恵子の死は、事故なのか稔による殺人なのか?・・・。

サスペンスの要素もたっぷりの脚本が出色です。ひとつひとつのセリフ・状況が、その時の登場人物の心情をあますところなく描いている上、後で幾重にも重なり真実を暴露し、登場人物の心も掘り下げます。恐れ多くも黒澤明の「羅生門」を思い出したのですが、ちょっと褒めすぎかな?でもそれくらい、本当にびっくりするほど素晴らしいのです。脚本も監督の西川美和です。

二人は容姿・性格、何もかもが対象的です。風采は上がらないが、温厚誠実で親孝行な稔、親に反抗して家を飛び出し、今は成功し都会の水で洗われ垢抜けた猛。お互い久しぶりに再会に思いやりを見せるも、心に影が差しているのもわかります。昔の恋人であっても、今は兄が憎からず思っているはずの智恵子を、再会した日に抱いてしまう猛。稔は小さい頃から自分より父に気に入られる存在だったのでしょう。何でも長男が一番、弟は二番。兄は新品、弟はお古。そのことにコンプレックスを抱いていたとしたら、もしかして兄嫁になるかも知れない人は、俺のお下がりなんだよという、屈折した気持ちがあっての行為かもわかりません。人柄をともかく、それ以外の物は何もかも自分より眩しい弟に、智恵子と食事するようお金を渡す稔は、兄としての思いやりと同時に、俺が兄貴なんだぞ、お前には施す存在なのだとの、虚勢も見え隠れするのです。

ずっと映画を支配する、鬱蒼とした閉塞感は、田舎が舞台であるせいではなく、この兄弟が背負う「家」なのではないでしょうか?「家庭」ではなく「家」。父親の言いつけを守らず、兄といっしょに家業を継がなかった猛には、心の底で全てを兄に押し付け自分はしたい放題している後ろ暗さがあったはず。その上の世代の父と伯父は、本来なら長男の伯父が家業を継ぐべく存在であったはずなのに、弁護士となっている伯父は頭脳明晰な優秀な人だったのでしょう。父の、本当は自由の身分だった自分が、家に縛らているという感情は、鬱屈したものが家庭にも反映され、その中で兄弟が育ったというのは、想像に難くないです。稔が猛に語る、家にがんじがらめにされて、何もなくつまらない人生、それを彼は、父と共有していたのではないかと感じました。


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08月03日(木)
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