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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「明日の記憶」
母の日の日曜日、次男からのプレゼントで上映2日目に観て来ました。家事を済ませて夕食の買出しもOKの3時50分からの鑑賞でしたが、開始直前にラインシネマに着くと超満員で、久々に最前列で鑑賞。いやもう、泣きまくりました。号泣です。結婚24年目、夫52歳私44歳には身近過ぎて、ちょっと冷静ではいられませんでした。少し気は早いですが、これからいくら完成度が高い素晴らしい作品が出てきても、今年の私のNO.1は、この作品のような気がします。今回ネタバレですが、読んでからご覧になっても大丈夫な作品だと思います。是非読んで!!!

大手広告代理店で部長職につく佐伯(渡辺謙)は、結婚して25年のもうすぐ50歳。働き盛りのサラリーマンで、妻枝実子(樋口加南子)と、もうすぐ嫁ぐ一人娘梨恵(吹石一恵)のいる家庭も円満で、何不自由ない暮らしを送っていました。そんな佐伯に、若年性アルツハイマーが襲います。

最初営業マンとしての佐伯の辣腕ぶりと人好きのする人柄を描きますが、そこに挿入される何気ない自覚のないままのアルツハイマーの症状は、渡辺謙がアルツハイマーを患う作品とわかっているので、ちょっとしたホラーもんです。人の名前が出てこない、鍵を忘れる、高速を運転していて降り口を間違った、家にあるのに同じ物を買ってしまう、そして時々襲う頭痛。40過ぎた人のほどんどは、このどれか当てはまるものがあるはずです。私など医師(及川光博)が佐伯に対して施す簡単なテストを、思わずいっしょにやってしまいました。

アルツハイマーには若年性もあるとは知っているものの、まさか自分がというのは、誰でもそうです。自分がアルツハイマーだと診断された佐伯の激しいショックや嘆きが手にとるようにわかります。「俺が俺でなくなっても、お前は平気か?」と泣きながら妻に問う夫に、「私だってショックだよ。でも私がそばにいるから。」と答える妻。お互いが自分の手で相手の涙を拭うのです。この演出は素晴らしい。言葉はそれだけなのですが、一瞬で親にも兄弟にも子供にも恋人にも親友にもなる、夫婦の機微が感じられました。一発目の号泣です。

大きなプロジェクトを前にして、病を隠して仕事をする佐伯の、どんどん悪化していく病状は、通い慣れた路で迷子になり、いつも接する人の顔がわからなくなるなど、同じアルツハイマーを描いた「きみに読む物語」や「わたしの頭の中の消しゴム」では描かれなかったリアリティです。この辺の丁寧な描写で、佐伯の追い詰められ、張り裂けそうになる心や神経が、手に取るように理解出来ます。こんな形で仕事を追われる佐伯の無念さで、会社の冷たさも描きますが、同期らしき上役(遠藤憲一)の冷静な判断と心からの労い、部下達の佐伯への感謝の言葉の数々が、会社人間であった佐伯を静かに肯定していて、熟年世代の男性への思いやりのある演出に、心が打たれます。

対する妻は、これからの生活のため、独身の親友(渡辺えり子)に仕事を世話してもらいます。主婦として良妻賢母であったろう家庭しか知らない女性が、40代後半で一家を支えなければならないのは、正直とても怖いものです。私も短大卒業後就職せずにすぐに結婚、夫のリストラのため36の時フルタイムでパートに出た時、ものすごく怖かった。しかし毅然とした枝実子からは、必死さは感じられても、心細さは感じさせません。妻と言うものの芯の強さを見せてくれますが、その胸の内を推し量れる私は、ここでも泣きます。彼女が娘を嫁がせ子育ての大任を終え、これからの人生をどれだけ楽しみにしていたかもわかる私は、それも涙に拍車がかかりました。

娘が結婚式を挙げ、名実共に夫婦だけになった家庭は、「熱帯魚の餌は一度だけ」とか「散歩からは10時に帰る」など、至るところに大きくメモが張られています。一人留守番をさせる夫への、枝実子の心のこもったメモは、もはや佐伯は夫ではなく、彼女の帰りをひたすら待つ子供であると感じさせます。


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05月15日(月)
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