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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」
名優トミー・リージョーンズの初監督作品。昨年のカンヌ映画祭で主演男優(トミー・リー・ジョーンズ)と脚本賞(ギジェルモ・アリアガ)を取った作品。全然予定になかったのですが、予告編を観てピンと来るものがあり、その後大阪の映画友達の間では、局地的大評判に。しかし公開後たった二週間でレイトに変更になると知り、今年のGWの夫婦のデートムービーとして、これを観ようと企んだワタクシ。トミー・リー主演監督と夫に伝えると、二つ返事で了承してくれました。彼は男性には抜群の高評価俳優なんですねぇ。噂にたがわぬ素晴らしい作品で、単なる男同志の友情だけではなく、人の心に澱のように沈む孤独を、厳しく、しかし遠くからしっかり見守るような、父性的な香りのする作品です。
メキシコと国境が近いテキサスの田舎町。不法滞在者のカウボーイ、メルキアデス(フリオ・セサール・セディージョ)は、ふとした誤解から国境警備隊員のマイク(バリー・ペッパー)に射殺されてしまいます。メルキアデスと親しくしていた初老のカウボーイのピート(トミー・リー・ジョーンズ)は、犯人がマイクだと突き止めるや彼を拉致して、生前「俺が死んだら、故郷のヒメネスに埋めてくれ」とのメルキアデスの願いを聞き入れ、遺体を連れて帰ることにします。
脚本のアリアガはメキシコ人で、「アモーレス・ペロス」や「21グラム」など、イニャリトゥ作品でも担当しています。この作品も前作品群同様、前半時空をいじっており、正直またかよと、ちょっとうんざりする気持ちになったのですが、今回はピートとメルキアデスが友情を育む様子、マイクの粗暴さや妻ルー・アン(ジャニュアリー・ジョーンズ)の田舎町で一人夫を待つだけの寂しさや空虚さ、老いた夫を持ちながら浮気を繰り返す人妻レイチェル(メリッサ・レオ)や小心者の警官のベルモント(ドワイト・ヨーカム)など、登場人物の心模様をより深く、人間臭く掘り下げるのに成功しており、演出のスパイスとして効果的でした。
ピートは家族はいるのか?妻は?ずっとカウボーイをしていたのか?など、一切の説明はありません。しかし彼のメルキアデスとの約束を果たそうとする姿に、観る者に彼はどんな男なのかがわかります。私が感じたのは、一口に言ったら「男力」のある人だということ。人種に関係なく人柄で相手を見る、約束を守る、髭に白い物が混じる年齢なのに、セックスを楽しみ憎からず思う女がいる、などなど。息子のような若さのマイクを拉致する時もまるで危なげが無く、男としての格の違いを見せ付けます。演じるのがトミー・リーなので、一層ピートの男力を底上げします。
ピートだけではなく、マイクの不法入国者に対する必要以上の暴力や、妻に対しての自分勝手なセックスの様子などで、マイクの粗暴さを描きますが、誤ってメルキアデスを射殺してしまった時の狼狽の様子や以降の怯えたような姿に、粗暴な彼は本来の彼ではないとも感じさせます。妻のルー・アンも、今まで生きてきた華やかな世界と全くかけ離れたこのど田舎で、夫を大切にしたい気持ちと、寂しさと憂鬱とに折り合いを付けられない姿を、ダイナーで人前でけだるく煙草を吸う様子、美しく若い彼女が肌を極端に露出する服を着ても、誰も誘おうともしない姿に、その心の動きが思い測れます。
ここからネタバレ**********
死体のメルキアデスを道連れにするピートを、マイクは狂人扱いします。しかし観客はそう思ったでしょうか?ブーツも履かせず、メルキアデスの服をマイクに着せ、馬で国境を越えさせるマイク。マイクが蔑んだメキシコ人たちのアメリカへの道程の逆を行くことで、それが如何に過酷なものであるか、体験させたかったのではないでしょうか?それがメルキアデスへの、何よりの償いになると思ったのでしょう。
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05月04日(木)
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