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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「欲望」
直木賞作家小池真理子原作の恋愛映画。主演の板谷由夏が「ベティブルー」のベアトリス・ダルばりに、果敢に全裸のファックシーンを何度も演じているので、どうしてもエロティックな作品と捕らえられてしまいがちですが、三人の若い男女の、愛と一致しない肉体の乾き、もどかしさ、悦びを描いて、とてもとても心に残る作品です。

昭和53年。独身の27歳の高校の図書館司書青田類子(板谷由夏)は、同じ高校の教師能勢(大森南朋)と不倫関係にありますが、それは相手を思う気持ちより、肉体の欲が優先していると、彼女は感じていました。そんな時中学時代仲の良かった阿沙緒(高岡早紀)と再会し、婚約者の精神科医袴田(津川雅彦)を紹介されます。彼女より31歳年上の袴田は、かつて阿沙緒の主治医でした。袴田邸での結婚披露パーティに招かれて類子は、そこで高校以来会っていなかった秋葉正巳(村上淳)と再会します。彼は袴田邸の造園を請け負っていました。類子・阿沙緒・正巳は中学の同級生で、正巳は阿沙緒が好きでしたが、当時から親友と呼べる存在は類子の方でした。そんな正巳を密かに愛していた類子。高校生になり正巳と阿沙緒が付き合いだしたある日、自動車事故で九死に一生をおえた正巳ですが、その後遺症で一生女性を抱けない体になってしまいました。そのことは類子だけが知っていたのです。

この作品の成功は、板谷由夏の起用、それに応えた彼女の大変な好演によるところが大きいです。昨年「運命じゃない人」でも、あばずれながら憎めぬ女を自然な演技で好演していた人です。愛と性がテーマの作品なので、たくさんファックシーンが出てきますが、スレンダーで長身の彼女からは猥褻な雰囲気はまるでなく、上品で清潔感が溢れていますので、しっかりと類子の心を追うことが出来ます。能勢とは情事、正巳とは愛。その時々で類子の心模様を見事に演じ分けています。二度ほど正巳との時に彼女が泣くのですが、私も号泣。性を描きながら愛する正巳を思いやる気持ち、哀しさ、喜びなど、見事に心が浮かび上がっていました。長く映画を観続けていますが、セックスシーンで泣いたのは初めてです。

類子の日常は本好きで聡明な彼女に似つかわしく、静かに穏やかに過ぎています。毎週土曜日能勢との情事に溺れる彼女ですが、普通知的な女性の性欲が強調されると、二面性や露悪的な部分など扇情的に描かれがちですが、類子にそういう印象は受けません。隠された部分を暴こうというのではなく、普通の27歳の女性の日常にセックスが組み込まれているのは当たり前であるとの印象が残ります。むしろ自分が快感を感じる時、脳裏を霞める正巳の辛さを思いを馳せるなど、彼女が肉体だけの関係に溺れるのは、常に正巳の存在があるための乾きなのかと理解しました。そしてそんな自分を戒めるため、別れた後自分は一人残されるが、帰る場所のある能勢を選んだのかと思いました。

阿沙緒は無邪気で奔放、自分に正直なため、相手を傷つけることもしばしばな女性です。しかし無防衛な彼女は、誰より自分も傷ついてしまうのです。そして一人が寂しく孤独でいることに我慢が出来ません。それが「私子供が欲しいのよ。セックスなんかしなくていい。赤ちゃんだけが欲しいの。」というセリフにも出ています。上手くいかぬ袴田との関係を短絡的に子供が出来れば何とか過ごせると思う幼さと、敬愛を持つ夫のとの関係の修復に何度も心を入れ替える素直な愛らしさが彼女の魅力です。

家政婦の初枝は類子に、「類子さんは奥様と違う色を持っていらっしゃいます。」と言いますが、類子の持つ色は教養でないでしょうか?私も教養の薄い人間で、この作品で立ち込める三島由紀夫の香りを楽しめず、2冊くらいしか読まなかったのを後悔しています。この作品は精神的には「春の雪」より三島が香っている気がします。芸術的なことや音楽、本、絵画など詳しく味わえる方が羨ましく、自分の干支の牛のごとしでもいいので、今からでも少しずつランクアップ出来れば良いと思っています。それは見栄ではなく、教養が豊かだと人生が充実し、一人で過ごす時間が楽しいのではないかと思うからです。


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01月12日(木)
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