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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ミリオンダラー・ベイビー」
本年度アカデミー賞、作品・監督・主演女優・助演男優受賞作。
常に一定の水準以上の作品を送り出すイーストウッド監督は、もちろん俳優としても大スターで、今作品にも主演しています。多分今のハリウッドで一番リスペクトされている人ではないかと思います。予告編を観て、勘のいい人ならわかるオチにがっかりしている方も多いでしょうが、そのがっかりから後が、真骨頂の作品です。私は観終わってしばらく涙が止まらず、椅子から立てませんでした。感動しまくったので長いです、すみません。

ロスのダウンタウンで小さなボクシングジムを営むフランキー・ダン(クリント・イーストウッド)。トレーナーとしての彼の腕を疑う者はいませんでしたが、成功を急ぐ優秀なボクサーは、彼の元から去っていきます。名トレーナーであっても、彼は試合に勝つことよりもボクサーを大切に思うため、優秀なマネージャーではなかったのです。今日もチャンピオン戦目前に、ビッグ・ウィリーがフランキーの元を去って行きました。
そんな時入れ替わるように、マギー・フィッツジェラルド(ヒラリー・スワンク)が現れ、フランキーにトレーナーになって欲しいと頼みます。即座に「女はトレーニングしない」と断りますが、元ボクサーで今はジムの雑役係のフランキーの親友スクラップ(モーガン・フリーマン)の力添えもあり、彼女の熱意にほだされたフランキーはトレーナーを引き受けます。出ればワンラウンドKO勝ちで無敵の強さを誇るようになるマギー。同じアイリッシュ系の血が流れるマギーに、「モ・クシュラ」と刺繍した緑色のガウンをプレゼントするフランキー。彼女の愛称となった「モ・クシュラ」の意味を、イギリスチャンピオンとの試合に勝った後聞くはずのマギーでしたが、この試合が、フランキーとマギーの人生を大きく狂わせるのです。

私はスワンクがオスカーを取った「ボーイズ・ドント・クライ」が作品的にイマイチだったのと、その時対抗馬だった「アメリカン・ビューティー」のアネット・ベニングのあまりの素晴らしさに、その受賞は異議ありでした。しかしこの作品のスワンクの輝きぶりはどうでしょう。31歳で最貧民層の白人であるマギーは、成り上がるためにボクサーになったのではありません。年齢を理由にトレーナーを断るフランキーに、彼女は「ただボクシングが好きなだけなの。」と答えます。客の残り物をこそっとくすねて食費を浮かそうが、テレビのない部屋に住もうが、自分の大切なもののためにお金を節約するマギー。好きだから強くなりたい、必死でトレーニングする姿とともにその純粋な心はむしろ羨ましくさえ見え、決して年も考えぬバカ者には見えません。

出会った当初から「あなたは父に似ている」とフランキーにいうマギーは、彼を自分の最愛だった父親に重ねているのは明らかです。何度でも彼女の口から出てくる父の良きエピソードは、彼女が父以外から愛を受けたことがないのを浮き彫りにします。出番を知らせる男性から「LOVE(可愛い子ちゃん)」と呼ばれたマギーは、「父以外の男の人から、あんな言われ方したの初めてよ。勝ったら結婚を申し込まれるかしら?」とはしゃぎます。「その時は俺が結婚を申し込むよ」と答えるフランキー。私はこのシーンが大好きです。彼女はファイトマネーを細々貯金し、貧乏暮らしの母親に家を買いますが、それは早くに亡くなった父が、そのために自分たちはこんな貧乏暮らしをと、家族たちから恨まれるのがいやだったのではないでしょうか?父の代わりに家族を愛し、良い生活をさせたい、それが彼女の願いだったように感じます。しかしそんな彼女の気持ちを踏みにじるような家族で、しっかり自立しお金を仕送りまでする娘の職業を「世間の笑いものだ」と嘲笑する姿に激怒しつつ、「モンスター」でも同じような親を見た私は、これは貧困が生む無教養と言うアメリカの病巣の一つなのかと思いました。



ここからは観てから。ネタバレです。(終了後にレスあり。読んでね)













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05月30日(月)
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