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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「Ray レイ」
ジェイミー・フォックス入魂の演技が大変話題の、レイ・チャールズの伝記です。動物園前シネフェスタは、お休みの日もすいていることが多いですが、この日お昼の回は、そこそこ満員でした。大阪市内で上映しているのは、ここと梅田のOS劇場だけなので、偶然エレベーターで乗り合わせた二組の御夫婦が、「何で映画館の階で停まれへんねんやろ?」と口々に仰るので、「6階で降りてエスカレーターで上に上がるんです。」と、聞かれてもないのに、ついつい言ってしまいました。かように普段は映画とは縁のない方も、レイ・チャールズの伝記なので来られた方も多いみたいで、年齢層はやや高めでした。
幼い時弟を亡くした心の傷と緑内障が重なって、8歳のレイは盲目になってしまいます。貧しいシングルマザーの母に、厳しくも大切に育てられた彼は、盲学校を卒業すると、シアトルへ音楽で身を立てるため旅立ちます。その天才的な才能を開花させた彼は、アトランティスレコードの重役の目に留まり、レコードデビューを果たします。続々とヒットを飛ばすレイ。ゴスペルシンガーでもあったデラ・リーと結婚し子供にも恵まれた彼は、表向きには順風満帆でしたが、バンドのコーラスガールを次から次に愛人にし、結婚前からのヘロインを手放せないでいました。
レイ・チャールズの人生の前半を、きちんと光と影の両方の部分を描いています。特に面白かったのが、レコードデビューしてからの戦略です。生きるため人受けが良いよう、ナット・キング・コールの二番煎じだった彼に、アトランティスの重役達は、ほんのちょっとのヒントを出します。それがきっかけで次々ヒット作を飛ばすレイ。まさに天才の名にふさわしく、溢れる才能は泉の如しですが、言うなれば彼はダイヤモンドの原石で、原石を磨く人=プロデューサーが編曲したり、ラジオ局を地道に周ったり、長い一つの曲をA面B面二つに分けると言うアイデアを出さなければ、たとえ優れた曲であっても、彼の曲を耳にすることは出来なかったかと思いました。そして即興で作った曲が大ヒットしたり、愛人に向けての恋心や痴話げんかが元になっていたりの、面白いエピソードも披露されます。
最初ローカルなバーから始まり、やがて全国を回るバンドの一員のなってまでは、彼を取り巻き甘い汁を吸ったり、浮いた扱いをしていたのが全て黒人だったのが、どんどんレイが実力をつけ黒人社会からはみ出す勢いになると、白人が手を差し伸べます。ビジネスとして成功が見込めれば、肌の色に関係なく条件提示する白人社会。根強い差別があった時代でも、お金になる才能には、平等であったのだなと思いました。
当時と言えば、今は黒人も混血や整形が進み、美形で端正な人が増えましが、昔風の整ってはいないけれど、暖かみのある顔立ちを感じさせる俳優を使っていたのが、当時の雰囲気を醸し出すのに一役かっていました。
影の部分ですが、レイ存命中に撮られた作品のためか、ぎりぎり見せられる限界まで見せましたと言う感じです。女性に溺れたりヘロインが手放せないのは、盲目の孤独やヒット曲を生み出し続けねばならないプレッシャーだと言うのは、手にとるようにわかり(他にも理由はあるのですが)、丁寧な演出でした。ただ人が出世して行くと、どうしても裏切ったり裏切られたり、人が信じられなくなって行く場面も多いと思うのです。レイが育ててもらったマイナーのアトランティスから、金銭的に有利な大手ABCにレコード会社を移籍するときの経緯も、あまりにあっさりしすぎ。長年マネージャーだったジェフが、切れ者のジョーに自分の立場をとって代わられて不安になり、使い込みをしそれが発覚するや、ここもあっさりクビに。盲目だけでない、成功した者につきものの孤独感も、もう少し掘り下げて欲しかったかと思いました。
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02月07日(月)
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