ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927165hit]
■「月」
良かったのは、洋子夫婦の描き方。子供を亡くした夫婦のその後は、お互いを思いやりながらも、このようにすれ違うのだと思います。夫が小さな賞に入賞し、「今度回転寿司に行って、いっぱい食べよう。賞金出るんだ、五万円だけど」との言葉に、嬉しくて号泣する洋子。「お金なんか関係ないよ」。かつて彼女が貰った賞には、比べるべくもない小さな賞だと思います。でもこの数年の夫のどん底の葛藤を知るから、心から嬉しいのですね。夫婦の再生を祝福しているようで、このシーンは大好きです。
私は40で初産の人が、「出生前診断はしなかった。どんな子でも受け入れる気でいた」との言葉を直接聞いた事があります。出生前診断で、子供に異常があれば96%が中絶を選ぶとのセリフは、診断する人は、異常があれば中絶が前提なのだと思います。これをどうこう言う人がいるなら、私は人でなしだと思う。障害児を産まなくて済んだと安堵する人はおらず、自分も傷ついているはず。一生その事を背負って生きているはずです。
新聞で読んだ、療育施設の所長さんの談話を要約して書きます。「障害を持つ子供は、小さなうちから見つけ出し、早くから療育機関に繋げること。そうすれば、必ず社会に適応でき、就労に繋がる。人口が減る中、生産性のある人を社会に送り出す事は、税金の収益にも繋がり、国力アップとなる。なので、これらの責任は国にある」。朝から胸が熱くなりました。
この作品に描かれた障害者は重度で、就労は難しいです。しかし基本は同じ。扇情的な場面の羅列の割には、薄っぺらな内容で憤慨しましたが、この事が再認識出来たのは、私的に収穫です。作り手の、あなたはどう思うか?の私の答えは、生まれ来る人々は、全て生きる権利がある。それは重度障碍者だとて同じ。その人たちが、状態に応じて安寧な生活がどうすれば送れるか
、それを考えるのは国の仕事。しっかり国に考えて貰って、私たちはその財源を作るべく、しっかり仕事して、税金を払う、です。
かつて看護師が不足していて、国は担い手を作るため、医療者としての位置づけを医師の直ぐ下に置き、賃金をアップして、国ぐるみで地位を高めた、という話を読んだ記憶があります。それを今度は福祉業界で働く、介護職や保母さんにして欲しい。福祉の世界は、かつて母・妻・嫁・娘が、愛情や責任の美名の元、当たり前のように無報酬で担っていました。政府は、女子供が今までタダでやっていた仕事、金が当たるだけ有難いと思えの感覚でいたのが、今の惨状を生んでいる。陽子の父が言う、「娘は尊い仕事に就いてる」のセリフは、私もそうだと思います。福祉業界で働く方々が、プライドを持って仕事が出来るよう、国に猛省を促したくなる作品でした。
11月06日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る