ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927282hit]

■「ミナリ」
立ち行かぬ農場に焦りを覚える夫婦。そんな時、スンジャが脳溢血で倒れます。長らく韓国の男女の価値観である、家長の行いには絶対服従に縛られているのは、モニカも同じ。しかしついには夫に離婚を進言します。今育った作物の引受先が決まらなければ、同意すると言う夫。

デビットの受診に家族四人で都会に出ます。何と田舎暮らしが良かったのか、デビットの心臓の穴は小さくなっており、手術の必要はなくなりました。このままこの暮らしを続ける方が良いとの主治医の言葉に、喜色満面のジェイコブ。作物の出荷先も決まり、意気揚々です。これで離婚は回避出来たと喜ぶ夫に、妻はそれでも別れると言う。ジェイコブは自分が甲斐性がない事に妻が不満で、それさえ乗り越えれば夫婦仲は円満だと思い込んでいる。しかし妻は、苦しい時辛い時、妻の心に寄り添ってはくれず、意見さえ拒んだ事が哀しいのです。共に人生のパートナーとして歩んだ手応えの薄さが哀しいのです。本当に本当に解るよモニカ。

暗い気持ちで家路に着けば、農作物が置いてある納屋が火事に。体の自由が利かず、家族に迷惑をかけている事が辛いスンジャが、せめて役に立ちたいとごみを燃やしたものが引火したのです。茫然とする間もなく、懸命に作物を出す夫婦。モニカが命がけで作物を出すのは、夫がどんなに丹精込めて作った野菜かを知っているから。しかしジェイコブは途中で作物を出すのを止め、「ヨボー!」と必死でモニカを探します。亡我の妻を外に引っ張り出す夫。

余りの事に死のうとする祖母を、子供たちが追いかける。「お祖母ちゃん、そっちじゃない。お家はこっち。一緒に帰ろう」。何度も笑ったり涙ぐんだりしましたが、ここが一番泣けました。

そしてその後、最初の水探しにはジェイコブ一人だったのが、今回はモニカも同伴。二人の夫婦仲はすっかり元通りに。ジェイコブはやはり優しい人です。お前の母親のせいで!とは言わないのよ。モニカは丹精込めた作物より妻の命を優先し、スンジャの事も問わない夫に、夫婦としての愛情を実感したのでしょう。そして命がけで作物を守ろうとする自分に、夫への愛情を確信したのだと思いました。夫婦は愛情が残っている間は、別れないのが正解だと思います。

デビットは祖母が倒れた時、「お祖母ちゃん、アメリカに来なければ良かったね」と言います。それは韓国なら倒れなかったと言いたいのか、お祖母ちゃんが来てから、良い事がないと言いたいのか、判りません。でも私は思う。モニカが必死に家族の幸せを祈り、ポールも共に祈ってくれた一家。現象としては災いばかりでしたが、それを跳ね返す力を一家に与えてくれたのは、スンジャが来てからです。何も役に立てなかった彼女こそ、幸運の女神だったのじゃないかしら?それがラストシーンに繋がると思いました。

ラストシーンで、川面に盛大に育ったセリ(ミナリ)を見て、ジェイコブは「
お祖母ちゃんのお手柄だな」と呟きます。セリの種は、スンジャが韓国から持ってきて、蒔いたのです。彼女はその時言いました。「煮て良し、鍋にして良し、ナムルにして良し。手もかからず育って、セリはいい事尽くめだ」。雑草のように自力で逞しく育ち、どんな環境にも柔軟に調和する。在米の韓国人はセリのようにアメリカと共生してきたのだと、取りました。私は明確なラストシーンだと思いましたが、どうも巷では判らないとの感想が多いようです。でもセリでジェイコブ一家が生計立てたと信じた方が、安心するでしょう?(笑)。なので、私の感想に一票入れて下されば幸いです。私には忘れられない作品。

03月30日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る