ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927076hit]

■「ナイトフラワー」
夏希が愚かで愛しい母なら、みゆき(田中麗奈)は、愚かで哀しい母です。夏希の夫は妻子と借金を置いて出奔。みゆきの夫は医師らしく、裕福な様子ですが、妻子には無関心。子供から簡単に逃避する父親を登場させ、母親は何があっても、我が子を育てなければいけない責任感を、対照的な二人の母から、浮かび上がらせていたと思います。

ラストは観客に委ねています。私はあのラストは幻想だと思う。罪を犯せば罰は待っているものです。それがどんなに同情を誘うものであっても。子供が巻き込まれるのは哀しいですが、子供が小さい頃は、母子は一蓮托生、運命共同体です。だから子を持つ親は、子供のために、自分を律しないといけないのだと、私は思います。

正直、何故関西から東京へ逃げてきたのか?とか、渋川清彦演じる探偵が、みゆきの娘ではなく、何故夏希と多摩恵を追いかけてばかりなのか?とか、みゆきに「あんなもの」を渡して、足が着くと困るのはあんただろうがのオオボケかましたり、不可解なところはあります。でも夏希と多摩恵に免じて、そんな事は軽々問題なしです。

海は多摩恵が好きです。しかし、多摩恵が心底辛い時、彼女の肩を抱いてよしよしと慰めるのは、夏希でした。母親に甘えるように、夏希に泣きじゃくる多摩恵。その姿を観て、彼女に必要なのは、男の愛ではなく母親の愛なのだと悟る場面が、この作品の中で一番美しいと思いました。

私の父は五歳で母親を亡くし、腹違いの兄二人は、私の実母から所謂継子苛めをされて、育っています。私の育った家庭は常に不安定で、それなりに裕福なだけが取り柄の家。大人になった兄たちは、そんな実母に攻撃的でした。家庭を省みない父にも、理不尽に私や妹にも攻撃的な兄たちにも、私は大きな不満を持っていました。それが自分が家庭を持ち長男を生み、長男に自分の全てを捧げても良い感情に包まれた時、ふと、父や兄たちは、この母親の感情を知らずに育ったのだと、とても哀れに思いました。私が父や兄たちへの蟠りが溶けた日です。

幼い子を抱えて、子育てに迷えるお母さんたちに、是非観て欲しい作品です。そして三男の言葉を送ります。「世界一のお父さんも、普通のお母さんに負ける」。それが母親です。

12月07日(日)
[1]過去を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る