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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ANORA アノーラ」
大富豪とド底辺のストリッパーが、どちらが人として嗜みがあるか、一目瞭然のシーン。イヴァンの母からしたら、分を弁えろという事でしょうか?一体何時の時代だよ、と言いたいところですが、ジュリア・ロバーツが自身の出世作の「プリティ・ウーマン」の事を、「あれはファンタジーよ」と言い放った35年前と、哀しいかな、世の中は変わらない。「契約」の正当性をアニーが主張しても、踏みつけにするのです。イヴァンを含め、一家はアニーをバカにして見下し続ける。

この作品は、シンデレラストーリーの、苦い現実だけを映す作品なのでしょうか?私は違うと思う。最初から最後まで、アニーに丁寧に接するイゴールは、「イヴァンはアニーに謝罪すべきだ」と物申す。雇い主にです。言えないですよ、普通。思うに、彼も貧乏暮らしから抜け出すために、用心棒稼業のようですが、心は常に平常運転。こんな男は観た事がないアニーが、どう接すれば良い解らず、常にイゴールに毒づくも、飄々としながら、ビクともしない。時々彼から出てくる祖母の存在が、イゴールの人格の高さの源のように感じます。そう思うと、アニーもイヴァンも、貧富の差はあれど、本当は表裏一体のような気がしてなりません。

マイキーは役柄通り、ヌードも辞さずで、セクシーなシーンも多数なんですが、それより服を着た時の気の強さや、心の清潔感が溢れていた事が印象に強く、とにかく大熱演。容姿から東洋人とのハーフだと思っていたら、純粋なユダヤ系だそうです。これでオファーが殺到してくれたら、嬉しいです。

ポリゾフもオスカーは逃しましたが、余り抑揚がないキャラで、そこにイゴールの内面を浮かび上がらせるのは難しかったでしょうが、この作品の良心ともいえる役柄を、きちんと伝えていました。


アノーラは何故アニーと呼ばれる事に固執するのか?アノーラの意味は「光」。本来の自分は光なのに、今の自分からは程遠いと思うから、アニーと呼ばせるのかと感じます。イゴールの意味は戦士。彼が今までの人生で戦って手に入れたのが、タフで心優しく思いやりのある人格なのでしょう。そこに権力やお金の有無は感じません。イゴールこそ、この作品の光ではなかったのかな?

ラスト、イゴールの胸で初めて泣くアニー。今までの悔しくて辛い人生、泣いたら負けだったんでしょう。泣いてリセットするんだよ。そしてイゴールから手渡された物を有効に使って、新たな人生を歩んで欲しい。苦くて優しい「光」のあるラストでした。

さてオスカー受賞は本当に喜ばしい事ですが、これは過分に期待料が含まれている気がします。同じような作品が乱立して、新鮮味の薄い作品が並ぶ昨今、インディーズから飛び出したベイカー監督に、ハリウッドは新機軸の作品を期待しているんでしょう。これで箔がついて、出資する人が増えるでしょうけど、底辺の人たちを見つめる、暖かい眼差しは忘れないで欲しいです。次作にも期待しています。

03月09日(日)
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