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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「阿修羅のごとく」(Netflix)
咲子はお人形さんのような容姿を自覚し、子供の頃からそれを利用して生きている。勉強がダメでもへっちゃら。だって男にモテモテだもん。でも実のところ、自分の取り柄は容姿しかないのを知っている。愛した男には一途で、実は四人姉妹で一番情が深い。傍若無人と天真爛漫を行ったり来たりしながら、実は自己肯定感が低いのも、期待されていた男に生まれなかったことが、最大の起因。
そして母。夫の不倫を黙って見過ごしていたのは、ミニカーを鬼の形相で投げつけるところに、集約されています。男が産めなかった悔しさが、これでもかと表されている。それと同時に、夫に男子を抱かせることが出来なかった申し訳なさもあるのですね。浮気相手の連れ子が女子だったなら、子供がいなかったなら、また態度は違ったかもしれない。
なので、同じ「黙っている」を選択した母と次女は、家庭を守るためという大義名分に隠された本音は、私は違うと思います。
いやいやいや。元作当時は私も女として、まだまだひよっこでね、というか、卵だったんだと、今回のリメイクを観て痛感しました。ストーリーが面白くて観ていただけで、姉妹のキャラなんて、こんなに深く味わえませんでした。それだけでも観た意義がありました。何というか、みんながみんな、「男」という存在に振り回されている。自分軸では生きられない、その辛さを、男側からは「阿修羅」と表現されます。当時はこの見下される辛さ哀しさ必死で生き抜く姿を、女は強かだの魔物だのと言われていたんですよ。「男」にね。自己を確立して自分軸で生きても、人(意識の低い女も含む)からは、表立って(そう、裏ではまだ陰口言われるよな)悪くは言われません。あぁ、良き時代になってきたんだと、この作品の母に近い年齢になった私は、本当に感慨深いです。
キャストは、これ以上ないんじゃないかと思う程、ドンピシャの好演でした。特に私が期待していなかった面々の大活躍に目を見張りました。広瀬すず、こんなに上手かったっけ?鉄火肌の亜種みたいな咲子が、実は昭和の女の哀歓を一番漂わせていてる。男次第の人生のアップダウンを、本当に懸命に生きている様子を、体当たり的な好演でね、感激でした。
モックンなんて、この役は荷が重いと思っていたのに、昭和の上質な出来るサラリーマン感が満載でした。何が出来るってね、仕事も家庭も上々の納め、秘書も摘まみ食いしちゃうという、当時の男性の理想だったはずの姿に(笑)、全然違和感なかったです。
モックンの愛人疑惑の秘書役の瀧内公美も、スゲーのなんの。出て来た瞬間、世の人が想像する昭和の美人秘書そのもの。真実は明かされませんが、多分モックンと出来ている(笑)。婚約者もいるのにねー。こういう女性が魔性なんだよ。瀧内公美、この頃どんどん綺麗になってお芝居にも磨きがかかり、ファンとしては嬉しい限りです。
国村隼の父も感激しました。私は今の役者では見当たらない重厚さの、佐分利信の父がとても印象強く、映画版の仲代達也にして、私的には超えられませんでした。それが重厚とは違うアプローチで演じており、飄々とした中に、断ち切れぬ男の性も、器の大きさも、娘たちへの想いも感じさせて、大成功だったと思います。
触れていないキャストにも何一つ文句ないです。そして一番良かったのは、元作へのリスペクトが十分に感じられた事です。当時は時代と同時進行でしたが、その時代をそのまま使い、筋を変えず、印象深いシーンはそのまま再現して、なお新たな感想を引き出すなんて、本当に凄い。是枝監督とネトフリには、感謝申し上げます。観られる環境の方は、是非ともご覧ください。
02月09日(日)
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