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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「シビル・ウォー アメリカ最後の日」
これがアメリカの正体なのだろうか?イギリス人監督のガーランドは、「違う」という気持ちを込めて描いたのが、この四人だと思いました。私はそこに彼のアメリカへの敬意を感じます。当初こそ、「後部座席は老人ホームと保育園ね」と、皮肉めいてリーは言いますが、彼女の愚痴はこれだけ。人は皆、人権を持ち対等であるべきです。しかし年齢・性別・出自・財力が絡み、平等ではありません。そこに助け合い、相手を思いやる気持ち、そして尊重が無いと、ずっと格差は埋まらない。この四人には、それがあったと、私は思います。それも命懸けの。
私がとても好きなシーンは、世話になってばかりのリーに、ジェシーがドレスの試着を勧め、その写真を撮るシーンです。微笑むリーには、束の間の心の休息であったでしょう。無力な者だって、相手の心に水を与える事は出来るのです。
観る前は、ガーリーなイメージで好演しているキルスティンは、ミスキャストだと思いました。それがどうして、今まで観て来た彼女の中で、一番素晴らしい!素顔に近いメイクからは、わざと不細工に撮っているのかと思う程、疲労が滲み出ている。それなのに、豊かで高い人格を滲ませています。兵士でない戦争の片側を、一番表現していたと思います。
売り出し中のケイリー・スピーニーは、本作で初めて観ました。「プリシラ」のスチールからは想像できない別人ぶりです。この作品は、数日間で変貌していくジェシーの、成長物語でもあります。もっと緩やかな成長でも良いのに、戦争は人を一変させてしまうという事でしょう。最後に撮った写真は、ここからジェシーの地獄の一丁目が始まるのだ思いました。思う存分、地獄を歩く事でしょう。
二人とも来年のオスカー候補になると思います。
戦争は何故起きるのか?私は欲だと思う。それに追随する人の理由は、貧しさだと思う。そう思うと、閉塞する世界中に、背筋がゾッとするのです。衝撃的な映像がずっとエンディングで流れます。ジョエルが大統領の短いインタビューに、「それで充分だ」と答えます。その眼には、私は憎しみが籠っていたと思います。この年になって、今更ながら政治がどれだけ大切か、身に沁み理解出来るようになりました。アメリカだけではなく、世界中に向けての祈りを込めた、反戦映画だと思います。
10月13日(日)
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