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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「アイアンクロー」
やりたい音楽活動もしたいと言えず、リングに上がったマイク。高圧的な父が君臨する家庭で、「家業」であるプロレスが嫌とは言えない。進んでプロレスラーを選んだ息子たちとて、マジシャンズセレクトのように、レスラー以外の生き方は選べなかったのでしょう。次々、王者でなければ、誰よりも人気を得なければ、金を稼がねば。そのプレッシャーに負けていく様子が、本当に辛い。

しかし、私が感心したのは、死にゆく息子たちを理解し、憐憫の情を見せる演出ながら、親のエリックも、ただの「毒親」としては、描いてはいなかった事です。確かに独善的で子供たちを支配していた彼ですが、一子相伝(多子だけど)のアイアンクロウの技もあり、自分が立身出世したレスラーを継ぐのは、当然の事だと思っていたでしょう。ましてや息子たちは、七光りを利用できる。プロモーターとしての金の使いこみなどあれど、そんな親は、この世代ならごまんと居ます。家業であるプロレスを守ることが、家族を大切にすることだとの、間違った思い込みがあったのだと感じました。

本物のケビンが、「とても自分の気持ちを理解している作品」と評したのは、自分の描き方以上に、両親に対して、慈悲のある描き方だったからかと思います。画面のケビンからは、親に対して辛さや悔しさは感じましたが、憎しみは感じませんでした。ケビンが生き残ったのは、父親という壁を、自分なりに理解。越えられたからかと思います。

ケビンに家族の本来あるべき姿を教えたのは、妻のパム(リリー・ジェームス)であると、私は思います。華やかな喧騒の日々は、さぞ毎日がプレッシャーとストレスだったでしょう。現在たくさんの子供と孫に囲まれ、妻と共に牧場で穏やかな日々を過ごす、実在のケビンの様子が挿入され、また私は涙。

実は私も、それなりの裕福な家に生まれました。父は50人くらい従業員のいる会社のオーナーで、当たり前のように独善的。気のきつい母とは常に不和でした。両親は私の新婚時に離婚。バラバラにですが、それぞれの形(母親はそうとうしんどかった)で、二人とも看取る事が出来たのは幸いです。一緒に育った腹違いの兄二人とは、絶縁宣言した覚えもありませんが、連絡先も知りません。唯一両親が一緒の妹とも、訳あって疎遠。今は宴の残骸もなく、私の実家は跡形もありません。

私自身は夫と3人の息子に、お嫁さんと孫に囲まれ、穏やかに老後を迎えています。自分の生家を想う時、ケビンも私と同じく、寂寥感を抱いているはずです。誰も憎まず、誰も怨まず。この感覚も、ケビンと共有していると、作品から感じています。家族愛もテーマの作品ですが、人生において家族の形は変わっていき、その状況で優先順位は変わるはず。娯楽だけではなく、学ぶことも多い作品でした。

04月14日(日)
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